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『底辺からの叛逆〜転生した世界で「呪術」を極め、神殺しの王座へ登り詰める』 第一話 泥の底から神を睨む
「おい、動かないぞ。まさかもう死んだのか?」
「ちっ、使えない奴だ。これじゃあ明日の神殿への『生贄(供物)』が足りねえじゃねえか」
痛い。全身が、焼き付くように痛い。
どす黒い悪臭が鼻を突く。視界を開けると、そこは石造りの薄暗い地下室だった。
目の前には、豪奢な毛皮をまとった大男と、冷酷な目を下卑た形に歪める男が二人。手には血に染まった鞭が握られている。
(……ここは、どこだ? 俺は確か、研究室で……)
そうだ。俺は前世、あらゆるオカルトや呪術、世界各地の伝承を狂ったように研究していた。そして、長年の実験が実を結び、古の儀式を再現したその瞬間に――強烈な光に包まれて意識を失ったのだ。
「おい、目を開けたぞ! 根性のある野郎だ、さすがは『無能の呪われ子』だな」
ガシャリ、と重い音が響く。自分の手首を見ると、そこには魔力を吸い取るという「沈黙の鉄鎖」が繋がれていた。
それと同時に、この身体の元の持ち主――レイスという少年の記憶が、濁流のように脳内へ流れ込んでくる。
ここは、光の神「ソル」を絶対神と崇める聖王国。
この世界の人々は誰もが生まれながらに神の祝福(ギフト)を受け、華々しい魔法や剣技を操る。
だが、この少年レイスだけは違った。
授かったのは、神の光を拒絶する不吉な変異属性――『呪術』。
魔法も使えず、剣も握れず、家族からも「忌み子」として捨てられたレイスは、この地下闘技場の奴隷として、日々貴族たちの娯楽のために殴られ、虐げられてきた。そして明日、光の神に捧げられる「生贄」として命を散らす予定だった。
「神の祝福だと? 笑わせるな」
喉の奥から、乾いた笑いが漏れた。
前世で俺が極めた「呪術」とは、他者を呪うだけの安っぽい技術ではない。それは、世界の理(システム)をハッキングし、因果を歪め、理不尽な運命を書き換える「最高峰の技術」だ。
神が定めたカースト? 生まれ持った身分?
そんなもの、俺の呪いの前では等しく無価値だ。
「おい、何を変な笑い浮かべてやがる、不気味な野郎だ!」
苛立った男が、容赦なく鞭を振り下ろす。
パシィィン! と鋭い音が響き、レイスの細い肉体に新たな赤い線が刻まれた。激痛が走る。
だが、俺は笑みを消さなかった。
呪術の基本にして神髄は、「負の感情とエネルギーの循環」だ。
今、この身体に刻まれた痛み、理不尽への怒り、男たちへの憎悪。これらすべてが、俺の「呪力」の最高のガソリンになる。
(繋がれ、因果。紡げ、呪詛。お前たちが崇める光の神がどれほど偉いか知らんが――)
俺は目を閉じ、脳内に広がる前世の膨大な呪術知識のアーカイブにアクセスする。
沈黙の鉄鎖が魔力を吸い尽くそうとするが、関係ない。俺が練り上げているのは「魔力」ではない。命を削り、怨嗟を糧とする「呪力」だ。
ガチ、リ。
脳内で、世界の境界線が外れる音がした。
レイスの身体の奥底で、ドス黒く、どこまでも深い「呪詛の泉」が産声を上げる。
(その神ごと、この世界のすべてをひっくり返してやる)
「明日が楽しみだな。クソ野郎ども」
顔を上げ、血の混じった唾を吐き捨てながら、俺は男たちを睨みつけた。
その瞳は、怪しく禍々しい紫色の光を放っていた。
男たちが一瞬、恐怖に身を震わせる。
底辺からの叛逆。その最初の犠牲者が誰になるか、俺はもう決めていた。
(つづく)