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花火祭り
初小説
二人の肩がそっと触れた。慣れない距離感に戸惑いつつも、頬が熱を持ち始めているのを感じた。花火の閃光が、私たちを照らしては消えて、照らしては消えてを繰り返している。ちらりと隣を見るとまっすぐに花火を見つめる彼の綺麗な横顔が見えた。不思議とその姿から目を離せなかった。
「…なに?」
ふと彼が顔をこちらに向けた。見ていたのがバレたようだ。恥ずかしさに、ふいと目を背けてしまった。
「…なんでもない」
死んでも言えない。あなたに見とれていたなんてこと。
「花火、綺麗だね。めっちゃカラフルだよ」
私も花火を見上げてみるが集中できない。せっかく二人で花火を見るために抜け出してきたのに花火どころじゃない。私の心臓の鼓動なのか花火の音なのかわからない音が止まない。
だってもう私の心はあなたに全部、奪われたから。
「そうだね」
適当に相槌を打つ。自分の暴走する気持ちに腹が立ち、ため息が漏れた。
「どうした?嫌なことでもあった?」
「んーなんもないよ。てかむしろ幸せ!」
私はこれまでにないほどの幸せを感じている。少女漫画のヒロインが送るような青春生活を再現しているようだ。ほんの一週間前までは少女漫画のヒロインが恨めしくて仕方がなかったのに。だってあれは全恋する乙女の憧れる理想のシチュエーションが詰まっているのだから。
だけど今はそんなものはどうでもいい。二人でこの眺めを共有できているだけで人生の絶頂だ。
「奈月、入学式の日のこと覚えてる?」
突然、彼の口から言葉が発せられた。驚きと共に、忘れようとしていた思い出が蘇った。
「覚えてるけどさぁ、もうあれ軽く黒歴史だもん」
「あはは、ほんとびっくりしたよあのときは。入学式で椅子がいきなり壊れるなんて思いもしなかったよ」
そう、私たちの出会いは入学式中私の座っていたパイプ椅子が突然壊れたことに始まる。状況を理解できずパニックになっていたところ、ちょうど後ろの席に座っていた彼が式中ずっと支えてくれたのだ。
「あのときはほんとにありがとね。普通に恩人だよ」
「まー校長の話が終わらないのが一番冷や汗かいた。おかげさまで次の日無事に筋肉痛になったよ」
思い出に浸りつつ、そっと花火を見上げる。色も形も大きさもバラバラなのに、どうしてか美しい。
「てか奈月ってダンスうまいよな。習ってた?」
「ちょっとだけね。なんで知ってるの?」
「体育祭で見た。めっちゃかっこよかった」
不意の褒め言葉にドキッとせざるを得なかった。さらに体育祭のときに見てくれていたことだけでも高揚感が高まる。
「…冬也も歌うまいでしょ。去年文化祭で歌ってたの覚えてる」
「え、見に来てたん?あんときステージの上から探してたんだからなー見つけらんなかったけど」
「ふふふ、なにそれ。幼稚園児がパパとママ探すみたいだね」
「誰が幼稚園児だよ」
彼と話していると、自然に会話ができるし気まずい瞬間もない。ときどき想像してしまう、もしも彼が彼氏だったら毎日楽しいんだろうなって。
今この瞬間に告白をしたらなんて返事が返ってくるんだろう。受け入れてもらえるかもしれないし断られるかもしれない。それはいつだって成功するなんて保証はない。でも、いつだって変わらないのなら、今でも明日でも一年後でも確率は二分の一。なら、早いうちに決着をつけた方がいいに決まってる。
心を決め、彼を向いた瞬間、目があった。その瞳に釘付けになり、頭が真っ白になった。
「あ…の……聞いて欲しいことがある」
もう後には引き下がれない。当たって砕けろだ。
「私ね、冬也のことが好き」
意味がわからないほどにドキドキしていた。沈黙が怖くて、必死に付け加えた。
「入学してからね冬也のことしか見えなくて、ずっとずっと追いかけてた。でも、告白するタイミングがわからなくてさ、なかなか言えなくて…そしたらもう私たち高校二年生になっちゃってて、今まで来ちゃった……冬也って結構モテるじゃん?今まで何回も告白されたでしょ。でも、全部断ってるって噂だったから私もダメかもしれないと思うと勇気でなかったんだよね…それでももしチャンスをくれるなら、私と付き合ってください」
彼の顔が見れなかった。恥ずかしさに目を合わせるなんて出来なかった。
不意に彼の匂いが漂った。抱き締められた。彼の温もりを感じる。心地が良い。
これは…告白の返事?期待してもいいの?
「奈月…俺も好き。先に言わせてごめん…こちらこそ、付き合ってください」
「っ……よかったぁ。冬也、これからよろしくね…」
「うん」
私、冬也と付き合えるんだ…
「…最高に幸せ」
「俺も」
そして私たちは花火を横目に、静かに口づけを交わした。
リクエストありがとうございました☺️