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海の始まり。
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あたしの町は、ちいさいと言うにも大きくて、大きいと言うにもちいさいような町だった。栄えてる訳じゃない。けど、栄えてないわけでも別にない。
ただ、海がある。広くて大きくて、果てしない海。教室みんな、授業中は水平線を眠そうに睨んであくびをしている。
あたしは学校から遠くて、毎日その砂浜前にある海岸前ってバス停からバスに乗って登校している。
中学校から、高2になるこの5年間。ずっと。バスの運転手さんと仲良くなるなんて事はないけど。
そんなバスの中で、毎日見る子がいる。
水色の、今っぽいランドセルを背負って、ぶらんとクラゲのキーホルダーが揺れる。
普通の小学生よりずっと落ち着いた様子で水平線を見つめるか、目を瞑っているか。
その子は、いつも1人でいる。ここから近い小学校は、みんなランドセルに黄色い名札をつけてる。でも、その子はそれがない。友達らしき人一人も居ないし、ここら辺の小学校じゃないのかな?あたしよりバス停は向こうだから、どこら辺かも分からない。
あの子のことは、小学生ってことしか分からない。髪が短いし、男の子かな、落ち着いているし、このあいだ、可愛らしいリップクリームをもっていたから女の子かも。
ガタガタとバスが揺れる。海から山道へ。バスには2人だけ。そんなだから、同じバスに乗っているあの子のことを考えることくらいしかやることない。
バスに乗って、15回分針が動いたら、いつもの学校前のバス停に着く。
着席の予鈴まで、あと10分。ちらほらと生徒が疎ましそうに教室のドアをくぐる。
テニス部が次の大会のメンバーの話をしたり、吹奏楽部が鼻歌で奏でる行進曲が聞こえる。あたし____九重 翠…ここのえ みどり は、部活も入っていなければ、もちろん委員会なんて目立つ仕事は、自分からやりにいなない性格だった。
机に突っ伏しているいと、背中をツンツンと刺された。
「うぎゃっ。」
後ろを勢いよく向くと、後ろの席の白上だった。
「お前さ、あいつと仲良いだろ、な。」
指の先には、まぁそこそこに関係のある仁菜…ひとな。
「あー?うーん。まぁ、まぁ。」
呼び捨てし合うくらいだし、友達でいっか。
「あいつに、これ渡しといてくんねえ。」
差し出されたのはプリント。どうやら彼と彼女は同じ委員会らしい。自分で渡せよ、これくらい。
「しょうがないな。」
プリントを受け取って、仁菜の横に立った。後ろから「サンキュー」と間抜けた声がする。
「仁菜」
呼びかけると、彼女は耳からイヤホンをとってあたしを見た。長い前髪の下に相変わらずの死んだ目。
「…なに。あー、えーと。翠。」
丁寧に本をぱたんと閉めた。
「これ、アイツが。」
適当に白上に指をさした。指の先の人物を見て彼女は一瞬ぎょっと目を開いてひったくるようにプリントを受けとった。
「ありがと。」
それからすぐに耳にイヤホンを乱暴にいれて自分の世界に入ってった。