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微
この眺めは非常に美しく、そして恐ろしい。
我々は今まで、この大きな球体の上で暮らしてきたのだ。
しかし、此処からその細かな様子は全く見えない。
「我々が今まで繰り返してきたことは、この広い空間に対し殆ど影響を与えていないこと。」
それが恐ろしかった。
目的地まで随分と距離があるが、すでにその輪郭はハッキリと見える。
その表面には、兎でも蟹でもない、ただの痣のような模様があった。
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今、生まれ育った故郷からは遠く、離れた場所にいる。
其処でみた星々と此処で見る星々は、大して見え方が変わらない。
その事実が、先程の恐怖を思い出させる。
我々は小さかったのだ。
本当に。
一方、目的地は少しずつ近づいてくる。
「この空間にも、まだ我々の手の届く場所はある。」
それが、僅かな安心だった。
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着いた。
身体が不思議な感覚になる。
いつもと違い地平線は白く、空は黒い。
二度と見れないであろう光景が、そこには広がっていた。
先程までの恐怖も忘れ、心が少年に返ったような気がした。
「この重かった宇宙服も脱ぎ捨て、肌で全てを感じたい。」
そう思ったが、今は出来ない。
そう今は。
ここ最近の技術の進歩は目覚ましい。
いずれ、こんなものを着なくても此処に来れる日が来る。
50年もかからない。
そのためにも、私は此処でやるべき事をする。