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財団職員のささやかな会話
みるる。様のコンテストへの参加小説です
読む前にこちらをご覧ください
エージェント蒼井について
http://scp-jp.wikidot.com/personnel-assessment-agent-aoi/jet0620@2018
エージェント戸神について
http://scp-jp.wikidot.com/author:ykamikura/ykamikura@2016
追記 主催者賞に選ばれました。ありがとうございます。
エージェント戸神は一人、談話室でただぼーっと過ごしていた。
今日は12/24、クリスマスイブである。こんな財団であるが、季節のイベントにはしっかりと対応していた。
久しぶりに食べた食堂のメニューには、ショートケーキがつけられてあった。おまけに砂糖で作られたサンタも。戸神はそのサンタがあまりにも可愛らしく、結局は蒼井に食べてもらった。この後には忘年会も兼ねたクリスマス会もするらしく、戸神もこの会に参加することにしている。
ガチャ、とドアが開く音がして、思考が停止する。反射的に目を向けた。
あいにく電気をつけていなかったため、瞬時に誰かを理解することができなかった。少したってから誰かを理解する。
「…蒼井先輩。」
「よぉ。」
蒼井は部屋に入ると、ガラッと音を立て窓を開ける。ポケットから何かを取り出し、火をつけた。
「タバコですか?」
戸神が尋ねる。
蒼井はコクリと頷いた。
蒼井は、戸神の教育指導を担当しており、同時に相棒でもある。
二十代であるにも関わらず、とても青年とは言えない、大人びた見た目をしている。眼光が鋭く、表情もまるで狼のよう。
そんな蒼井は、戸神の憧れでもあった。
談話室の中に、しばらく無言の空気が流れる。
そんな空気を破るように、戸神はある質問を投げかけた。
「…蒼井先輩は、サンタっていると思います?」
「いるわけ無いだろう、子供か?」
エージェントらしく、速答でその答えは返ってきた。
「ハハ、ですよね…」
戸神は苦笑いした。
よくよく考えてみれば、あんなに大人びた蒼井がサンタなんて信じるわけ無いだろう。
「戸神はどうだ?信じてんのか?」
半ば煽るように蒼井が聞いてきた。
「今は信じてないですよそりゃぁ…まぁでも、子供のときは本気で信じてましたね。確かお祖父ちゃんが死ぬまで。」
「中学でも信じてたのか?」
「…恥ずかしいからやめてください。」
戸神は物心がついたときから祖父に育てられた。魔術の研究をしていた祖父により、戸神はいつしかその分野のエキスパートとなっていた。
言われてみれば、小さい頃の戸神は、クリスマスプレゼントにゲームや漫画を頼んでいたはずなのに、次の日に届くのは毎回魔術や悪魔についての本だった。今の自分では気付ける。あれは祖父がくれたものだと。そもそもクリスマスプレゼントが願ったものとは違う時点で疑うべきだ。だが小さい頃の戸神はそれでも良かったのだ。その本を祖父に読み聞かせてもらえれば。そのためサンタを疑うことはなかった。
プレゼントを届けてもらえなくなったのは、ちょうど祖父が亡くなった年。その年にようやくわかった。サンタは親…祖父だっだと。
ありがとうぐらい言いたかったな、と戸神は少し後悔した。
「まぁ…俺は小さい頃から尋常じゃないぐらい魔術やオカルトについて調べてきましたから、そういうのも気づきづらかったんだと思います。」
「…お前らしいな。」
蒼井はふーっと息と煙を吐いた。
「戸神、なんか欲しい物あるか?」
再びの無言の空気を破ったのは蒼井だった。
「欲しい物…ですか?」
戸神は目を見開く。
なにせ、いつも表情一つすら変えず、感情があるかどうかも疑い始めた上司がいきなり見栄を張った兄のようなことを言ってきたのだ。
おどおどとしてる戸神を見ながら、蒼井はまた煙を吐いた。
戸神は少し考え、
「じゃあ…東南アジアにある呪術道具で…」
と最近みた呪術道具のことを冗談で話してみた。まさかこの上司がプレゼントを渡すところなんて想像できなかったのだ。
「馬鹿か。もっと現実的なもんにしろ。」
話を聞いた…いや、ほとんどは聞き流したかもしれない蒼井はそういった。
戸神は少し驚いた。まさか本当に渡す気なのか?
現実的なもの…それを聞いて戸神は考える。
なんか欲しい物…実用性がある…
そういえば最近寒いな。
戸神のクリスマスプレゼントは、この一思考で決まった。
「マフラーが、ほしいです」
「…わかった。」
戸神の欲しい物を聞いた蒼井は、灰皿にタバコを押し付け火を消したあと、談話室を出ていった。
その様子を見ていた戸神は、蒼井が店の会計でマフラーを出しているところを想像した。誰かに上げるんですか?とき聞かれ赤面する姿を。
こんな人がプレゼントをあげるなんて…と少し嬉しく思った。
12/25の朝、戸神の机の上には 手作りのマフラーが置かれていた。
初めての二次創作です。楽しんでいただけたら幸いです。