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第九夜「声の主」
語り部は町の図書館司書・白石澪。彼女は、古い資料室で見つけた一冊の日記について語り始めた。
「日記には、“灯籠会館に集まる者たちが、同じ名を呼び続ける”って書かれていたんです。昭和十一年の日付でした」
その日記の筆者は、かつて町に住んでいた青年・大澤陽一。彼は百物語の語り部の一人だったが、九十九話目の夜、突如姿を消したという。日記には、語られた怪談が“語り部自身の記憶を侵食する”と記されていた。
澪は続ける。
「最後のページには、“僕は語られた。僕は語られ続ける。僕は、語り部の中にいる”とありました」
その夜、灯籠会館の壁に、誰も書いていないはずの文字が浮かび上がった。
「陽一、語って」
その文字は、翌朝には消えていた。