公開中
第7話:放課後フルーツデート
昨日の「決死のデコピン事件」以来、大雅のメンタルはボロボロだった。
(俺は最低だ……。角度だの呼吸だの言っておいて、結局琥珀に痛い思いをさせた……)
教室の隅で、どす黒いオーラを放ちながら項垂れる大雅。周囲の生徒たちは「大塚が何か重大な犯罪計画を練っている」と勘違いし、半径5メートル以内には誰も近づかない。
「……大雅、顔が葬式だぞ」
呆れ顔の晴翔が、大雅の机に高級フルーツ店のチラシを置いた。
「ほら、駅前に新しくできたフルーツパーラー。琥珀ちゃん、ここ行きたいって言ってたぞ。デコピンの詫びに入れてこい」
「……フルーツ……パーラー……」
大雅の瞳に、宿命のライバルを見つけた時のような鋭い光が宿った。
放課後。大雅は琥珀を誘い、その店へと向かった。
店内は女子高生やカップルばかり。黒ずくめの巨漢・大雅が足を踏み入れた瞬間、店内のBGMが止まった(ような気がした)。
「わあぁ! 凄ぉい! 大雅くん、本当にここでいいの?」
昨日の怒りなどどこへやら、琥珀はキラキラした目でメニューを見つめている。その無邪気な姿に、大雅の胸が締め付けられた。
「……ああ。好きなものを食え。……端から端まで注文してもいい」
「そんなに食べられないよぉ。……あ、この『特選完熟イチゴパフェ』にする!」
注文が届くと、そこには宝石のように輝くイチゴの山。
大雅は自分の「アイスコーヒー(ガムシロ3個投入済み)」をすすりながら、幸せそうに頬張る琥珀をサングラス越しに凝視していた。
(美味そうに食うな……。……今だ。親父が言っていた『食事中のさりげない気遣い』。これこそが、デコピンの汚名をそそぐチャンス……!)
大雅は震える手で、自分のスプーンを手に取った。
「……琥珀。……その、なんだ。……俺の、一口……」
「え? 大雅くんも食べたいの? はい、あーん!」
作戦を変更する間もなく、琥珀がイチゴを差し出してきた。
「……ッ!!」
大雅の思考が停止した。
女子からの「あーん」。しかも場所は、女子高生だらけのフルーツパーラー。
極限の緊張の中、大雅は逃げ場を失い――バクッ!! と、スプーンごと食べそうな勢いで食いついた。
「わっ、すごい勢い! ……どう? 美味しい?」
「……あ、甘い。……殺人的に、甘い……」
大雅の顔が、イチゴよりも真っ赤に染まる。
あまりの照れ臭さに、彼は思わずサングラスをクイッと上げ、視線を逸らした。
「……お前の方が、美味そうに食うから……。……その、また……連れてきてやる」
その瞬間、琥珀は見た。
いつもは怖いサングラスの奥にある、子犬のように優しくて、必死に照れを隠そうとしている大雅の瞳を。
「……うん! 約束だよ、大雅くん!」
デコピンの傷跡は、イチゴの甘さと大雅の不器用な優しさで、綺麗に上書きされた。
しかし、会計時に大雅が放った「……釣りはいらねえ(本人はかっこいいチップのつもり)」という言葉で、店員を震え上がらせてしまったのは、また別の話である。
🔚