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桐壺
「ひゅえっくしょっ!」
春は少し寒い。馴染めるかどうかわからない環境から離脱して、今はいつもの帰路についている。小学校のときと同じだ。家と中学校の間に、小学校がある。
「いらっしゃいませー、桐の壺ですよ!」
「うわ…」
菖蒲色の絨毯をひいて、正座している。フリーマーケットとかはこんな感じなのかな。その横には、ずらり、壺、壺、壺。
壺と聞いたら、なんとなく怪しい印象しかない。少し遠めに歩いていく。でもなんとなく面白そうだから、少しだけ遠めに歩く。
「あ、そこの奥さん!」
普通の、お母さんぐらいの年齢の中年女性が呼び止める。彼女が壺を売っているらしく、正座している。呼び止められたのは、中年女性よりも若めの人だ。
「わたしはマリといいまして…貴方の御名前は?ああ、別にいいですね。突然ですが」
マリという女性は、若い人を口説き始める。新品のスクールバッグの中を探って、暇を持て余す。あのターゲットはもぞもぞとしていて、いっこうに行動しようとしない。そんなふうには見えた。
「えぇ、あぁ、壺?壺はべつに…」
「いえいえ、この壺、桐の壺なんです!桐ってわかります?日本を示すような木なんです。非常に高価な桐をふんだんに使って、お値段なんと100万円!」
オカルト的なあれではなさそう。セールスマンとしてもその値段は高すぎる。とくに、彼女はまだ新米カップルの1人のような感じがする。
「いえとんでもない!買わなきゃ損ですよ!」
「桐って…」
壺。普通の、茶色い壺。桐の壺は、あんまり高そうには見えない。桐は高いんだろうけれど、桐かどうかは不明だ。証明するものが何もない。
「キリ…どんな木ですか?」
「えぇ?あぁ…高くて優れている日本の木なんですよ!」
「どんなところがですか?」
形勢逆転の匂いがした。
「と、とにかく!買ってみたらわかります!」
「そんなに桐を勧めるのですから」
「いえいえ、えぇ…手入れ要らずなんです!」
若い女性の顔が、一気にゆがむ。歪むのが、後ろ姿でもわかった。
「桐は軽くて断熱性能があり、軽くて加工しやすいものです。しかし、高価で水に弱く、変色しやすく、そして何より《《メンテナンスが必要》》なのがデメリットです」
「え!?あぁ、そうでした、すっかり別の木と勘違いを…」
愚かだなぁ。それも、とんでもなく。
この小芝居はもういいや。わたしは再び帰路につく。
1発目…