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3人と1匹の共闘作戦
その日の夜、3人はトリカの考えた作戦通りに動き出した。
「バラーニ副団長、失礼します。トリカ・ナスターチ、ウィザードウルフを捕えて参りました」
トリカは騎士団本部にいた。例の副団長の部屋だ。
「魔術師はどうした?」
「残念ながら魔術師には逃げられてしまいました。しかし、ウィザードウルフは捕えられたことですし、逃げ出さないよう地下の独房に……」
その頃地下の独房では
「これ本当に大丈夫なんですか?」
「なにが?」
「いろいろとですよ、何です?この格好は」
2人は騎士団の制服を着ていた。見張りらしい人物は眠り薬によってぐうぐう眠っている。
「比較的新しい騎士団の制服。見張りの服を剥いで着てるとかじゃないからいいでしょ?作戦覚えてる?」
「えぇ、覚えてますよ。ルーフも大丈夫でしょうか」
ルーフは独房の中で暇なのか伏せてゆっくりと尻尾を振っている。少し機嫌が悪そうだった。アリフェ達は次の行動に移そうとして動いたその瞬間だった。突然勢いよく扉が開く。そこにいたのは……
「おや、どこからか子鼠が入ってきたようだ」
予想外の早さでのバラーニの登場にアリフェとネリネは思わず動きを止めた。立てていた計画が崩されていく。バラーニはアリフェの目の前にやってきて一言。
「どうしてここにいるのかい? 魔術師君。おかげて探しに行く手間が省けたよ。ここで君に提案があるのだけれど」
話す流れに合わせてバラーニはアリフェの片腕を掴んで引こうとした。しかし、アリフェは抵抗して腕を振り払う。
「何と言われようと私は貴方の提案には乗りませんよ。はっきりと申し上げますが貴方は今、魔術師の禁忌に触れようとしています。魔王にでもなるおつもりで?」
アリフェはバラーニを睨み付けていた。そんな雰囲気をもろともせずバラーニは続ける。
「これはこれは、ワタクシの計画を見抜いたようで。禁忌なんてそんなこと承知の上だ。この世界を作り替え、憎き奴等を滅ぼす。今度こそワタクシが頂点に立つ世界を作り出すのだ。そのためには魔王にでもなってやろうではないか」
「副団長、その話が本当であれば多少の犠牲は厭わないとおっしゃるのですか?」
バラーニの後をついてきていたトリカが尋ねた。既に剣の鞘を抜いている。
「そうだ、理想の世界創造の為に必要な犠牲だが。何事にも犠牲はつきものだ。何か問題でも? 君も|共犯《グル》とはね。ネリネ君と同じで始めから知っていたんだろう?」
「そうですよ。それもこれも全部オマエを止めるためだ!」
「問題しかない、大問題!あれもこれも全部あんたが仕組んだことなんでしょう?」
とうとう堪忍袋の緒が切れたネリネは剣を構えた。今にも飛びかかりそうな勢いで。
「ここで剣を抜いてはいけませんよ。ネリネ!」
「ここじゃあいろいろと場所が悪い。場所を変えようか」
アリフェとバラーニが叫んだのはほぼ同時だった。
魔法陣が辺り一面に広がり、まばゆい光を放つと床が謎の石盤で埋め尽くされた神殿の中にいた。いくつものろうそくが立てられ不気味さを増している。
「さぁ、条件は揃った。来るなら来ればいい。君達は抗うことができないのだから」
「それってどういう」
バラーニが腕を伸ばすと石盤が光出す。嫌な予感がしたトリカは叫んだ。
「まさか!下がれ!巻き込まれるぞ」
一同がギリギリで下がりきったのと同時に石盤から高密度の魔力が溢れだした。魔力は意思を持つかのように束となり3人と1匹に襲いかかる。何かに気がついたアリフェは警告した。
「何があってもあれを直に触れてはダメです!できるなら刃物で全部叩き切ってください」
「あれを叩き切るだなんて、マジかよ」
「よく気がついたね。魔術師君。これは発動させる高等複合魔術の最終段階。触れた時点で魔力を吸い取られ生け贄となり魔術は発動する。まぁ、発動するには莫大な魔力が必要だがな」
自分より背丈の高い獣と化した魔力の束を叩き切れだなんて正気の沙汰ではない。が、ここでこなしてしまうのが魔法騎士である。
「よっと」
ネリネとトリカによって真っ二つに断ち切られた魔力は空中で離散していった。断ち切られた後から再び束が復活する。それをまだ叩き切る。いたちごっこの接戦は続いていた。
「さぁ皆賭してワタクシの理想郷を作り上げるための糧となりなさい」
--- |我ガ完全ナル理想郷ノ創造《パフェティア・ユトーピ・ワン・ビルテ》 ---
バラーニは魔力の束と一体化し、更に化け物じみた姿になった。