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あやとり
基本の形にする。親指と小指をこの糸にかける。そして親指をこうして…
「ずいぶんうまいのね」
「わ!?だ、誰?」
ふふっと、上品に笑う声が聞こえた。
見上げると、いかにもおしとやかそうな子がいた。こんな安っぽくて誰もいない電車に乗るとは思えないけど。
「わたしはレイ。あやとりも好きよ。ねえ、ふたりあやとりはできないの?」
「できるけど、全然やってないからなあ。あ、わたしは|本塚梨里《もとづかりり》。梨里って気軽に呼んでね、で、どっちから行く?」
「じゃあ梨里からどうぞ。吊り橋、田んぼ、の方でいい?わたし、好きなんだけどそれしかできないのよ」
「いいよ!」
レイの指は白くてなめらかで、爪がほんのりピンク色で先がまるまっていた。
「ここでこうやったらダイヤができるのよ」
「そうなんだ!」
一番下の紐から指を通して、クロスの紐を掴み、そのまま一番下の紐を上からかけると、ダイヤが出来上がった。
「すっご!そういえば、これってカエルに見えないよねぇ」
「確かに。でも頑張ったらここが口で、ここが境目みたいにみえるわよね」
ふふっと、笑っていた。
こんな庶民的なわたしでも、対等に話すことができる。しかも、ムカつくようなこともせず、かつ上品という、絶対にモテそうな子だ。
「あ、梨里!」
「あ、おはよ、紀子…」
|石田紀子《いしだのりこ》だ。
塾へ行ってて、自分は賢いから〜と自慢する嫌な奴だ。でも大して賢くもないし、顔もいまいち。わたしは顔の点はプラスもマイナスもしないタイプだけど、中身が大幅にマイナス。
「なにそれ、あやとり?やっぱバカな庶民はそんな貧相な遊びしかできないよね!え、この子友達?めえっちゃかわいいじゃん!こんなやつと遊ぶ資格なんてないよ、こっちで遊ぼ!名前は?」
わたしをハブって、レイをナンパ。こんなやつ、レイは乗るはずないじゃん。
「わたしはレイ。よろしくね」
「レイっていうのー?よろしく〜ッ!さ、遊ぼ!」
「__…いい度胸ねぇ__」
微かなレイの声には、憎しみと、嫌悪感がこもっていた。
「三段ばしごよ、邪悪なものを封印せよ!」
わたしのひもを奪い取り、レイはささっと三段ばしごを作った。それを器用に指から外し、紀子に投げつけた!すると紅い光が放った___
「ああっ!?」
あやとりが巨大化して、紀子を包み込む。そしてまたひもがからみあって、もつれあう。
「くるしっ…!」
サラサラサラ、と砂のように紀子は散ってゆく___
「レイ、紀子って」
「大丈夫よ。時間が経てば戻るわよ。それに、そのときは邪悪な感情も封印してあるし、安心して。さてと、わたしはもう時間が来ちゃったわ。また会えることを祈って、さようなら」
駅の名前も言っていないのに、レイはいなくなっていた。
ひとり、不思議な空間に包みこまれたように電車に揺られていた。