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0 冒頭
「ねーさ。好きな人いる?」
「好きな人?」
「うん、ほら、教えて!」
「……ひみつ」
「なんで? 教えてよ!」
「だってさ。いっちゃったらつまんないじゃん」
「え~……。よくわかんないなー、言わないほうがつまんないよ」
「そ、いいよ、別に。私は今言わないからね」
私は帆岩このは、19歳。
周りからはすごくモテる、って言われるけれど、よくわからない。
モテるってなに?
付き合うって?
男から「ずっとそばにいてほしい」とか、「付き合ってほしい」とか。
言われてもときめいたことなんて、ない。
変わり栄えのないうわべだけの言葉に振り回されるか、まったく。
でもね、たとえば。
私を振り回しそうだなって思う人もいたりする。
大学の講義室の隅で本ばかり読んでいる、名前を呼ばれても返事が小さすぎて教授に怒られるような、存在感の薄い男子。別に仲がいいわけじゃない。むしろ、ほとんど話したこともない。
そんな奴にひかれちゃうのは負け女子だからかな。
―――――――――――――――――
「おはよー。ひだかっち」
「あ、おはよ、このは。今日佐伯のゼミ発表あるぞ~」
「わ~、くそ萎えるわー。サボろっかな」
「やめとけやめとけっ!」
ひだかっちが笑いながら私の顔を覗き込む。
その瞬間、ふと視線の端に、教室の隅が映った。
例の男子。
今日もひとりで本を読んでいる。
なんでだろう、目が離せない。
「……このは?」
「ん、なに」
「今、絶対なんか見てたよね」
「別に、何でもないってば」
ひだかっちがニヤニヤしてくる。
「どこ見てたの? 窓の外?」
いい感じでカン違いしてくれたから「そうそう、ほら、あそこの鳥見てた」と誤魔化す。
「どれ?」
「ほら、あの……ウグイス?」
「メジロじゃない? たぶん」
「お~。陰キャみたいな知識あるやん!」
私のからかいにひだかっちは呆れたように笑う。
ふと、窓の方―――いや、あの男子のほうを見ると、目が合った。
「ねえ、あいつうちらのこと見てね? キモ」
ひだかっちがそう言うので、あーそうだね、と話を合わせる。
まあ、私が見てたんだけど。
(……なんで私が気にしてんの。意味わかんない)
ひだかっちはまだ話していた。
「てかさー、このは。今日の発表、マジで逃げんなよ? グループ全員でやるやつなんだから」
「わかってるってば。ちゃんとやるし」
「ほんとかぁ?」
「ほんとほんと」