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壊れた世界の救い方 第五十話「深く呑み込め魔法の洞窟」
アルファチーム‐みぃ視点
「って感じらしいです」
「ベータチーム」
チームごとに分かれてからの調査から30分が経過
何かあったところからアルファに現状報告をすることを義務付けている
もし、そこに何かあってもすぐに助けられるようにだ
今はベータチームから送られてきた報告をはてなさんが流してくれた
「へー面白い」
「私でもレントムがランク付けされてたり種類があるのは知らなかったです」
LUAがこんな話に首を突っ込むのは無理もない
それはLUAが料理人だからとか言う話ではなく
ただアルファチームは面白いくらいに何もないのだ
ずっと靴の底くらい水の溜まった道が続いているだけだった
「ガンマチームは報告がないですね」
「私たちと同じような状況なんでしょうか?」
「それが良いのかもだけどね」
僕は正直戦いたくない
理由は簡単、死にたくないから
洞窟に来たのは面白そうだからだけど
こんなところで死んでるようじゃあ話にならない
でも今は面白くもなんともないんだけど
「はてなさんこれどれくらい歩いたら黒い物体があるとか分かるんです?」
「いえ、それは確かには分かりませんね」
「ですが私が調査依頼した方がいる道はこちらなので」
「会ったら是非話を聞きましょう」
はてなさんは歩いている最中時折クリスタルのようなものを取り出す
それをなぞったり耳に当てたりしている
僕には全く何をしているかわからなかったが
もしかしたらその調査隊の人と連絡をとっているのかもしれない
そういえば他のチームの報告を受ける時もこれを使っていた気がする
「はてなさんちょいちょいやってますけどそれなんですか?」
ナイスだ
LUAがまず聞いてくれた
「調査隊の方と連絡をとっているんです」
「意思結晶というもので、そうですね例えるなら電話です」
「各チーム1つは渡してあるんですよ」
電話、
それが何か聞いたことはないのに
なぜか意味を知っている
少し怖かった
「なんかすごそうですね」
「皆さん持ってないようですもんね」
「この意思結晶もこの洞窟で取れるんですよ」
「最近は冒険家たちが漁りに漁って探すの大変ですが」
全員が持っていたら便利だろうと思った
この暇な散歩道に少しは楽しみが生まれた
そこから僕ははてなさんの言った通り
少しでっぱっていて薄く光っている部分を探しながら歩いている
結局見つけることは出来なかったが、少し楽しかった
確か、そんな時だ
はてなさんの意思結晶が薄く点滅しだした
「報告ですかね」
はてなさんが意思結晶を取り出す
意思結晶を耳に当てるなりなんなりものすごい音が飛び込んできた
キーンという高い音
そこに負けまいと声を張るわんこの声があった
デルタチームの報告と考えられる
「ノイズやばくない?」
「洞窟の中ですし多分結界が貼られているのでこうなるんでしょうね」
「デルタチームの場所と私たちの今いる場所の間にあるって分かりました」
肝心な報告内容は一切聞き取れなかったがこれで十分らしい
「あっちにあるならアルファは大丈夫です」
「デルタチームやベータチームは心配ですが…」
またしばらく歩いていると
今度は少し濁った水が混ざるようになってきた
もしかして黒い物体が関係しているのだろうか
「近いですね」
「急ぎましょう」
---
ガンマチーム‐光視点
15分前
「ここ本当に洞窟〜?」
「植物多すぎじゃない?邪魔!」
「そんなこと言わないの」
「植物も一生懸命生きてるんだよ」
マンドラゴラってもしかして本当にマンドラゴラなのかな
さっきから邪魔そうな植物があっても無駄に優しい
通る時も優しく手で払いのけるだけだった
「あっ、これ薬草じゃない?」
見覚えのある植物だった
けど、若干色が違う気がする
「あーそうだね」
「てかレアなやつだよそれ」
「まじー!?」
それを聞いて私はすぐにその薬草を採った
大事に袋の中に入れる
「あれ、おんなじような奴さっきも見たよ」
わんこが少し戻り、先ほどのと同じ草を咥えて帰ってきた
ここら辺もしかしていっぱいあるのかもしれない
「ここにもある!」
「あ!あっちにも!」
10分くらいそれを続けていた
それだけでもう顔くらいの大きさの袋はいっぱいになった
「確かこれそのまま使うよりレントムと混ぜると効力が上がるんだよね」
LUAさんの荷物が異次元級に多かったこともあって
あの最初手に入れたレントムはデルタチームが持つことになったのだ
わんこの背中に括り付けてあったビンを下ろす
「もうこの中に入れちゃって良い?」
「荷物増やしたくないから」
「いんじゃねー」
私はビンの蓋を開けるとその中に全ての薬草を詰め込んだ
薬草がレントムに触れると、触れたところから溶けていく
全て溶かし終えた頃には液体は薄い黄色になっていた
混ざりきってないかもしれないからと
マンドラゴラはそのビンをシャカシャカと振った
ビンが大きいもんだから抱えるようにして振っている
すると中の液体はみるみる緑色に変わっていく
回復薬らしくなってきた
「すごいねー!」
「これは報告だよ〜!」
わんこがはてなさんから貰った意思結晶を取り出す
キラキラと光る水色のクリスタルだ
ここら辺でも取れると聞いて少し期待していたが今のところ見つからない
「あ、もしもしこちらデルタチーム」
「大量のレア薬草を発見」
「レントムを使い回復薬を作成しました」
「以上報告を終わります」
この意思結晶の不便なところ
こちらから連絡を入れた場合向こうの声は聞こえないらしい
だから、向こうの話を聞くにはこちらが連絡を切らないといけない
「はーなんか暇だねー」
「早く見つけて帰ろ〜」
マンドラゴラは暇すぎて石蹴りを始めた
真似して私も、そしてわんこも蹴り始めた
どこのチームが見つけてでも良いから早く帰りたかった
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ペンタ視点
やっぱり、奥の方が粘度が高い
最深部に原因はありそうだ
1mおきくらいに洞窟の入り口から水をすくって集めている
それでわかったのは奥に向かえば向かうほど濁り
奥に向かえば向かうほど粘度が高くなるということ
そして俺もまだよくわかっていないが
特有の成分の濃度が高くなっている
「帰ったらこれの続き調べなきゃだな…」
今日はそれを調べるための
濃度の高い部分を採取しにきた
そして調査依頼をしてきたはてなという人も今日は来ているらしいので
一緒に協力して調査をすることになっている
サンプルは多い方がいい
採取地点も違うものがあったほうがいいだろう
できれば早く合流したいのだが
ここは入り口からかなり潜った場所
今から来るとすればもうしばらくかかりそうだ
そんなことを考えていると左腕に何かが刺さるような痛みが走る
まただ、こんなことばっかりだからすぐに服に穴が開く
腰に付けていたカタールを引き抜きそいつに突き刺す
一発で素材になってくれるような雑魚で良かった
だけどここら辺の雑魚はレントムしか落とさないので気に食わない
カタールに滴る緑色の液体を水溜りで軽く流す
こいつは長い間一緒に過ごしてきた相棒みたいなもの
元は俺も普通の短剣を使っていた
けど、一度あの"事件"が起こしてからもう握っていない
やっぱりカタールは持ちやすくて良い
多分これからもこいつを使うだろう
「あっ!ペンタさん!」
ふと後ろから声がする
握ったままのカタールを構えて振り向く
そこにはおそらく調査の依頼者と思われる人物がいた
「わっ!待ってくださいはてなですよ!」
「失礼」
カタールを腰のベルトに戻す
向こうはまだ黒い物体まで辿り着いていなかったようで
手には採取用の空っぽのビンがあった
「この先が例の場所ですが、もう採取し終わりました」
「そちらは3名だけです?」
「いいえ、9名います」
「3つに分けて探していたんですよ」
「採取終わってしまったんですね、全員呼び戻します」
何をするかと思えば意思結晶を出して入り口に集まるよう言っている
まさか、こんな高度なものを全員が持っているとは思わなかった
長い間この洞窟にいる俺ですら1つしか持っていない
多分ずっと俺が見てるのがバレたんだろう
はてなは意思結晶を微笑みながらしまう
「これ便利ですよね」
「…うん」
3つに分かれてと言っていたので
最低でも3つは持っている計算になる
まだこの洞窟も奥にはあるかもしれないと密かに希望を抱いていたが
この様子だと難しいだろうか
「今からは調査基地に向かって採取した物質の調査を行います」
「えーとその…なんと言いますか…」
「一緒に来て手伝ってくれませんか?」
長らく物体の調査をしているはずなのに
含まれている特有の物体
それがなんなのか分からないのにはまず1つ決定的な原因がある
それは俺が細かい作業が苦手だからだ
この人たちに手伝って貰えばそれも早く終わるんじゃないかと思ったわけだ
「もちろんです!」
「というか依頼しておいた側なのにここまでありがとうございます」
「いやいやとんでもない」
このはてなという人物
なぜか金は大量に持っている
今まで報酬が200Gくらいの依頼がほとんどだったのに
ここの調査依頼はなんと5000Gだったのだ
それを聞いて飛びついてしまったわけ
でももちろん、それに似合うような結果は出したいと思っている
自分自身、思い出の場所でもあるから…
「じゃあ今から行きましょう」
「ここから入り口までの裏道を知っていますよ」
「早く行って他の方たちも待ちましょうか」
俺はそう言って裏道まで案内をした
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ベータチーム‐夜春視点
「…戻れだってぇええええ!!!」
「えー!!!」
「もう見つけたの?早くない?」
beriさんが意思結晶をぶんぶん振りながら怒っている
どうやら自分で見つけたかったらしい
フェンリルがしょうがないよと背中をポンポン叩いている
「うぅう…」
洞窟の入り口まで戻ると、もう既にアルファもデルタも待っていた
私たちベータが最後だったようだ
そんな中1人見慣れない顔を見つける
「はじめまして、調査隊のペンタです」
あっ、この人なんだ
見かけによらずしっかりしていそうだけど
やっぱりどこか抜けてそう
そんな感じがする
「はじめまして!」
どうやらペンタさんが既に物質を入手していたらしく
その研究を手伝ってほしいとのことだった
おしゃべりをしながら洞窟の上の山を登っていく
とりあえず何か話題を振ろうかと思い、話しかけてみる
「ペンタさん、調査隊って言うくらいなのに1人しかいないの?」
「うーん、まあ、今はそうなっちゃったかな」
ちょっとまずいことを聞いてしまったかもしれない
ペンタさんは急に暗い顔をして下を向いてしまった
「なんかごめんなさい…」
「いや全然大丈夫」
「あとさんって付けないで良いよ」
さっきまで敬語だったのに
そう言われるとタメで話したくなるものだ
「そういえば君の名前は?」
「夜春」
「夜に春で、夜春」
「夜春って言うんだね」
「よろしく」
ペンタはその後もみんなと話していた
自己紹介をしたり、ここまで来る道中のことを話したり
結構楽しかった
そして楽しい時間ほど早く感じる
最初はすごく高く見えた山でもすぐに頂上まで辿り着いた
「ここです」
ペンタが先に行ってドアの鍵を開ける
比較的新しそうな建物で、屋根はガラス張りになっている
展望台でもあるのだろうか?
「じゃあえーっと、3チームに別れてるんだよね?」
「ちょうど良いな」
ペンタはどこか変わった実験道具をテーブルに置いていく
「このちょっと改造しすぎて物騒になった顕微鏡をアルファ」
「繋ぎすぎてどこかから漏れてきそうな試験管をベータ」
「多分ここまでする必要のなかっためっちゃ火力の出るガスバーナーをデルタ」
「いや|長え《なげえ》よ!!!」
マンドラゴラのキレのいいツッコミが飛ぶ
あまりに切れ味が良すぎてペンタが血反吐を吐いている
「まあまあいいじゃない!」
「このちょっと改造しすぎて物騒になった顕微鏡はあっちで使ってね」
「んで繋ぎすぎてどこかから漏れてきそうな試験管はあっち」
「多分ここまでする必要のなかっためっちゃ火力の出るガスバーナーは向こうね」
「だから長すぎだっt」
「なんか言った?」
「いえ、なにも…」
マンドラゴラが震えながらガスバーナーの方へ向かう
私は確か試験管のほうだ
べりさんとフェンリルと一緒に試験管を持って移動する
「これ危ないなあ」
試験管と試験管に穴が開けられていて
そこを繋ぐようにしてたくさんのチューブが差し込まれている
しかもその数一本や二本じゃない
そもそも試験管が10個ほどあってその全てが繋がれている
あんまりこういうことは言いたくないが絶対不便だろう
「これで何するんだろ…」
他のチームのところにペンタが周る
その中でも一番最後にペンタが来た
「君たちのところはこれをお願いするね」
絶対熱そうな液体が入った試験管の液体を手渡される
試験管の温度は少し熱いくらい
でも液体は沸騰しているようにしか見えない
「これをこの手順でお願い〜」
「他の薬品はここにあるから」
そう言ってペンタは大量の小さな引き出しがついた棚を指差す
本当にたくさんの種類がある
絶対にどれか間違えるだろう
今私がここで予想しておく
「うわぁあ…」
フェンリルが手順の書かれた本を開くなり嘆いている
そもそもの手順がアホみたいに多い上に
小さな字でたくさん補足が書かれている
「終わった…」
「私こういうの苦手だからフェンリルと夜春頼む」
べりさんはニコニコ笑ってウインクをする
「は…?無理なんですけど!」
「いやいやべりやれよ!」
それでも私たちは全員で実験を繰り返した
よく見れば同じようなことを繰り返しているだけで
思ったより簡単だった
それでもフェンリルが薬品を間違えて
どっかのアニメや映画みたいに爆発させたのは笑えた
…と同時に今までの努力が木っ端微塵になったので許せない
「え…いつになったら出してくれるの…!?」
「うーん実験が無事成功するまでかな!」
べりさんはどこから持ってきたのか
フェンリルに手錠をかけてペンタに用意してもらった檻にフェンリルを入れた
ちなみに、ペンタはノリノリだった
実験は2人でも余裕で終了し、結果をノートに記してペンタに提出する
まるで学校で理科の実験をやってる気分だった
他のチームのところが終わるまで暇になってしまった
「ほらーふぇんりるちゃんこっちでちゅよぉー?!」
「もぉお!出してよ!終わったじゃん!」
「えー?ままのゆうこときけないわるいこしゃんわー!」
「いっしょうそのままでしゅよー!」
「もうべりだめだ…夜春助けてぇ!」
「え…ちょっとご遠慮しようかな」
「なんで夜春まで!」
檻の中のフェンリルを見ているのもなかなか良いものだ
べりさんがこういうのをよく好んでいる理由がわからなくもない
ペンタも入れて3人でフェンリルの檻を囲っていた
「ペンタ〜!こっちも終わったよ!」
「え?はや!」
「うん…確かに終わったね」
「色んな意味で」
わんこたちのほうはたしかガスバーナー
あんなに大きなガスボンベを繋いで
金属でも溶かせそうなくらいおかしな色の炎を吹き出すガスバーナーだ
何か起こっても不思議じゃない
よく見ればマンドラゴラが涙目で座り込んでいた
「どうした?」
「マンドラゴラが盛大に火傷しちゃって…」
「でも実験は無事終了しました!」
「マンドラゴラのおかげで!」
そう言いながら光はペンタにノートを手渡す
わんこは大きな回復薬から少し取り出してマンドラゴラの傷口に塗っていた
「えっともしかしてこの補足実際にやったの?」
「うん、、、」
「ばかすぎる…色でも炎の温度は分かるって書いたでしょ!」
「一瞬触っただけでも焦げるくらいとかやらなくても分かるように!」
「でもそのおかげでできたんです!」
「マンドラゴラの体を張った実験に感謝を!」
ペンタが呆れた様子で次はアルファチームの方へ向かう
ここは結構難航しているように見える
顕微鏡が物騒すぎて扱いが難しいのと
ピントを合わせるのが異様に難しいらしいのだ
「あ、これここに手挟むと一発だよ」
ペンタはそう言って高速丸ノコが回転する中指を入れた
その様子をただ全員呆然と見ていた
ペンタが指を入れた瞬間レンズの部分が大きくがしゃりと動く
肝心なペンタの指は無傷
丸ノコはセンサーが付いているのだろうか
「これ他の人が勝手に使えないように改造しといたんだよね」
「言うの忘れてたわ〜ごめんごめん!」
「ごめんごめんじゃないですよもう…」
みぃなんて拗ねて部屋の端っこの方にうずくまっている
相当苦戦したんだろう
やがてアルファチームの実験も終わるとペンタが機械にデータを打ち込み始めた
カタカタとキーボードを叩く音がする
タンッ
「できた!」
ペンタが持ってきたのは1枚の紙
3チームすべての実験結果を組み合わせたものらしい
私には何一つとして理解できなかったけど
テーブルの真ん中にその紙をみんなで取り囲む
「それで…なんだ…?」
しばらく経ってフェンリルが質問を投げかける
みんなわかってないに決まってる
けれどもペンタだけはじっとその紙を見つめていた
「何かわかったの?」
私も聞いてみるけどペンタの反応はない
つーっとおでこに汗が流れていくのが見えた
まるで何かいけないもの
あるいはすごいものを見つけてしまったような表だ
「こ…これ…」
「み…見たことがない…」
「なんだよ!!!」
やっと口を開いたかと思えば見たことがない
うんそりゃあそうだろうねとしか言いようがなかった
でも話を聞くとその重大さが目に見えてくる
「俺はもうずっとこんな研究を続けてきた」
「誰も行ったことがない場所まで行ったし」
「誰も見たことがないようなものまで見てきた」
「けれど、その全てに新しい物質が見つかることは未だかつてなかった」
「ペンタが下手だったからじゃなくて?」
「そこは安心しろ専門家に頼んでる」
べりさんの問いにペンタは少し困ったような顔をして答えた
けどそこまでして徹底的に調べようとするところは褒めたい
「これで何が凄いかわかったか?」
まとめると
ペンタは長年色んな物質を調べたりして
それでも新しい物質が見つかることはなかったのに
今日こんなまぐれで見つかってしまって驚いている
ということかな…?
「…でこれをどうするの?」
「名前とかつけちゃう?」
「そうしよう!」
ペンタは半分置いてけぼりで勝手に名前が決まった
決まった名前は
「じゃあ魔素、で良いんだね?」
そう、魔素だ
こうなった経緯的にはなんか魔法みたいだね!
そうだね!でもなんか凄い濃度が高いらしいよ
ほらここに書いてある
なるほどじゃあ魔素でいいや
こんな感じだったはず
いかにもファンタジー系の物語に出てきそうな名前に決まった
「魔素ねぇ…」
「じゃあこれだけを取り出せるかちょっと頑張ってみるね」
ペンタが拾ってきた黒い物体を持ったまま別の部屋に入る
ガチャリと鍵がかけられてから1時間ほどが経った
「指スマ2!!!」
「よっしゃあかったぁあ」
「…暇だね」
「どうする?帰る?」
みんなが飽き始めていた頃だ
「やっと出来た…ちょっといつもの薬剤が使えなくて苦戦したよ」
それでも1時間でこれは良い方なのではないか
ペンタが持って行ったはずの黒い物体は全く別のものに変わっていた
多分、摘出された側の黒い物体はそのまま黒かったが
摘出した側の物体は粉っぽく
魔素なんて怖そうな名前が付いているのにも関わらずキラキラしている
イメージ的には金色の粉が赤、青、黄、などの色に光った感じ
「そしてねー、効果も分かりました!」
ペンタがちょっと悪そうな笑みを浮かべる
ビンの蓋を開けたかと思いきや私に向かって粉をかけてきた
「きゃぁあっ!?」
…ちょっと期待するよね
でも、面白いくらいに何もない
体のどこを見ても何も変わってない
もっとかわいくなったり羽が生えたりとか期待してたのに
何もなかった
「何が変わったの…?」
「じゃあ実験台は…マンドラゴラでいいか」
ペンタが私の目の前にマンドラゴラを引っ張ってくる
何をさせる気だろう
「マンドラゴラに能力使ってみてよ」
「え!?俺??やめて!?」
内心やりたくなかったが(大嘘)
仕方なくマンドラゴラに能力を使用する
マンドラゴラとのレベル差は私の方が高くレベル5の差がある
少し体を動かしたりができる程度だ
せっかくならちょっと遊んでやろうと腕を動かして服を脱がせる
差が5くらいじゃあんまり言うこと聞かないから無理だろうけど…
「えっ?何やめて夜春!!!」
驚いた
マンドラゴラが私の思う通りに動いている
それどころか通り越して私が想像した以上に…脱いでる
上着脱がそうとしただけなのに…
「あぁあさいあくううう」
能力をやめるとマンドラゴラはうずくまってしまった
べりさんが傷口に塩を塗るようにして
脱ぎ散らかされた服をマンドラゴラに被せる
「使う人間違えたな…」
ペンタがぽりぽり頭をかいている
間違えたとか言うレベルじゃない
まあペンタは私の能力知らなかったから100歩譲ってまだ許すけど…
「ってことでこんな感じだね」
「これみんなの分」
小指ほどの大きさのビンに詰められた魔素をペンタがみんなに配る
私にも渡された
「能力を強化する作用があるみたいなんだ」
「もしもの時に使ってね」
わんこさんの能力に似てるなと思った
まあまぐれかたまたまだろう
でもフェンリルや光も同じことを考えたらしくわんこさんに視線が集中する
「でもまだ最深部まで行ってないのにこの濃度とは…」
「最深部、どうなってるんだろう」
次の日、また同じ道を同じグループで分かれて進んだ
最終的に一番最初に最深部に辿り着いたのはアルファチーム
全員が予想していた結果だった
けれど洞窟は奥に進めば進むほど敵が増え
所々にあった薬草などは姿を消していく
アルファチームが最深部に到着したと連絡が入ったのはついさっき
なぜか聞こえてきた声はLUAのものだった
「ちょっと怖いよね」
「はてなさんとかみぃ大丈夫かな?」
フェンリルはそう言うがこちらベータチームにも余裕はなかった
さっきフェンリルは致命傷を負い全員が持っていた回復薬の8割は消費したし
できるだけ使わないように使わないようにしてきたせいで
私もべりさんも身体じゅうに深くはないが傷があった
「急ごう」
「せめてデルタとは合流したい」
光やわんこさん、マンドラゴラの話を聞けばデルタの方は大量に薬草があるらしい
出現する敵も弱いし色々あまり消耗してないと思われる
そしてこのベータが進む道は最終的にデルタと合流する形になるからだ
ペンタが歩き回って書き記した地図通りだとするとそうなる
「あっ、デルタからだ」
べりさんが意思結晶を取り出して耳に当てる
「えっ、まじ?」
「戻るわ」
「ねえそれじゃあ聞こえないって!」
「ごめんごめん、合流するはずだった道通り越してるんだって」
「だから今デルタ必死にこっちに向かって走ってる」
「くそわろた」
フェンリルに棒読みくそわろたと共に来た道を戻る
案外すぐにデルタチームとは合流することができた
そしてお互いの状況確認をする前にアルファチームからの報告が入る
「緊急事態」
「アルファチーム入り口まで戻ります」
「他チームはそのまま調査を続けるようにだそうです」
「以上」
「え?緊急事態?」
聞こえてきたのはまたLUAの声
でも気になるのは緊急事態ということよりも
他チームはそのまま調査を続けるようにだそうです
この部分だ
まるで誰かに言われてやっているみたい…
「どうするべき?調査続けるの???」
光はすっかり怯えてしまい
何もないのに弓を構えておろおろしている
「私は帰るべきだと思うんだけど…」
みんなわんこさんと意見は同じだった
アルファチームですら緊急事態に陥るような場所
このまま調査を続けるわけにはいかない
そしてはてなやみぃ
アルファチームについて行ったペンタも心配だ
「戻ろう」
今まで来た道を全速力で駆け抜けていく
来る時の時間の半分ほどで外に出た
が
そこには誰もいなかった
「やっぱり…」
わんこさんが顔を|顰めて《しかめて》アルファチームの道へと向かう
待って待ってという皆の声も無視して行ってしまうものだから
私たちもついていくしか道はなかった
--- ここでやめておけば ---
--- 良かったのにね ---
またしばらくしたら別シリーズで第二章ということで続きを出します!
第一章、最後まで読んでくれてありがとうございました〜!