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死神と吸血鬼は……
月光が銀色に降り注ぐ、静寂に包まれた古城の庭園。
湿った土の匂いと、どこか甘く腐敗した花の香りが漂う中、二人の影が対峙していた。
雷牙は手にした漆黒の鎌を軽く握り直し、目の前の少女を見据えた。
彼の瞳には死者の魂を導く者特有の冷徹な光が宿っている。
しかし、その内面にあるのは戸惑いと、拭いきれない違和感であった。
彼に下された依頼は極めて単純であり、かつ絶対的なものだった。
「この地に潜む異端の存在――少女を殺し、その魂を回収せよ」。
死神としての義務に従えば、今この瞬間、目の前の少女の命を奪うべきなのだ。
しかし、いざ対峙した彼女は、彼が想像していた「怪物」とは程遠い姿をしていた。
綺喩は、月光に照らされた白いドレスを翻しながら、挑発的な笑みを浮かべて立っていた。
その肌は透き通るように白く、唇は鮮血を想起させるほどに紅い。
彼女こそが、この地に生きる吸血鬼であった。
雷牙「……動くな、君の魂を回収しに来た。それが僕の任務だ」
彼は低く、しかし確かな意志を込めて告げた。
鎌の刃が月光を反射し、鋭い輝きを放つ。
綺喩「ふふっ、死神の坊や。そんなに真面目な顔をして……私の魂なんて、奪えると思っているの?」
彼女は一歩、彼へと踏み出した。
その動きは人間離れした速さであり、風を切る音が静寂を切り裂く。
綺喩にとって、死神という存在は未知の恐怖であると同時に、抗いがたい好奇心の対象でもあった。
雷牙「動くなと言ったはずだ」
彼が鎌を一閃させた。
しかし、綺喩はその刃を紙一重でかわし、彼の懐へと潜り込んだ。
死神の力をもってしても、吸血鬼の機敏な身のこなしを捉えることは容易ではない。
綺喩「ねえ、聞かせてよ。死後の世界ってどんなところ? 私みたいな『異端』も、そこへ行けるのかしら」
彼女の声は甘く、しかしどこか切実な響きを持っていた。
雷牙は一瞬、攻撃の手を止めた。
任務に従えば今すぐ彼女の首を撥ねるべきだが、その瞳に宿る孤独と渇望が、彼の胸をざわつかせた。
雷牙「……君のような存在が、死後の世界へ行くことなど許されていない。それは僕の職務であり、世界の理だ」
綺喩「理なんて勝手なものね。私はただ、この退屈な永遠に飽きていただけよ。ねえ、殺してくれるなら、せめて私の最期を美しく彩ってくれない?」
彼女は彼の手を取り、自らの首筋へと導いた。
吸血鬼の体温は冷たく、しかしその鼓動は確かに刻まれていた。
雷牙は自身の使命と、目の前の少女への奇妙な共鳴の間で揺れ動く。
死神としての義務か、あるいは一人の人間……いや、異端の存在に対する同情か。
雷牙「……僕は君を殺すために来た。だが、君が望むような『美しい最期』など、僕に用意できる保証はない」
綺喩「いいわよ。その不器用な誠実さが、私にとっては最高の贅沢だもの」
月光の下、死神の鎌と吸血鬼の微笑みが交差する。
魂を回収するための儀式は、いつしか互いの存在を確かめ合うための対話へと変貌していった。
運命に導かれた二人の少年と少女の夜は、まだ始まったばかりであった。