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箱入り姫と6人の騎士 ⑧
赤都 乃愛羽
拒絶の檻〜
「触らないで……っ!」
リビングに、ちぐの悲痛な叫びが響く。
良かれと思って、栄養満点のスープをスプーンですくって口元へ運ぼうとしたるぅとの親友・ころんの手を、ちぐは激しく振り払った。
ガシャリ、と音を立てて床に散らばる陶器の破片。
「ちぐ……。一口でもいいから食べて。身体に障るよ」
ななもり。が宥めるように一歩近づくが、ちぐは狂ったように首を振って、部屋の隅へと後ずさる。
「嫌……! みんな、るぅとくんを殺してまで私を生かしたかったの!? 酷いよ……そんなの、愛じゃない!!」
ちぐは自分の左胸を、服の上から強く握りしめた。
ドクン、ドクン……。
怒りに任せて叫ぶたび、自分のものではないような力強い鼓動が、内側から彼女を突き動かす。それが何よりも、彼女を追い詰めていた。
「……殺したなんて、人聞きの悪いこと言わないでよ」
さとみが、低く冷めた声で言った。その瞳には、かつての優しさはなく、昏い執着の色が混じっている。
「あいつが勝手に決めたんだ。俺たちだって、あいつを失いたくなかった。……でも、あいつの心臓がお前を選んだんだよ。お前はもう、あいつの『所有物』なんだ」
「違う!! 私は私よ!!」
「いいや、違うね」
ジェルが背後から音もなく近づき、ちぐの細い腰を強引に抱き寄せた。
「その心臓が動いている限り、お前はるぅとの一部だ。そして、るぅとがいない今、お前を愛して守るのは……俺たちの義務なんだよ」
「……はなして、……っ、苦しい……」
ちぐの顔が苦痛に歪む。
心臓が、彼女の拒絶に反応するように、ギリギリと締め付けるような痛みを発した。まるで、内側にいるるぅとが「僕を拒まないで」と泣いているかのように。
「ほら、無理するから。……おいで、ちぐちゃん」
莉犬が、感情の消えた笑顔で両手を広げる。
「俺たちが、全部やってあげるから。歩くのも、食べるのも、寝るのも……。君はただ、俺たちの真ん中で呼吸してればいいんだよ」
逃げ場のない、豪華で残酷なシェアハウス。
恋愛音痴だった少女は、愛されることの恐怖に震えていた。
5人の騎士たちは、彼女を愛しているのではない。彼女の中に残る「仲間」の影を、狂ったように追い求めているだけなのかもしれない。
「……お願い、一人にして……」
ちぐの絞り出すような願いは、5人の分厚い執愛(しゅうあい)の壁に跳ね返され、誰にも届くことはなかった。