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そう心配しなくても、大した傷じゃない
特務課新人の職場体験、第六話。
ガブside
日は沈み、また昇り。
俺は|異能空間《ワンダーランド》で準備をしていた。
銃とかナイフとか色々と仕組めるし、ウォークインクローゼットからルイスの外套パクって良かったな。
#アリス#「……ガブ」
ガブ「心配しなくても、ルイスは俺が鏡のあるところまで連れてくる。だから待ってろ」
今回の作戦で重要なのは俺だ。
正直なところ、証拠隠滅が不可能なら助けることは難しかっただろう。
ガブ「行ってくる」
一言だけ告げて、俺は鏡を抜けた。
太宰「げ」
ガブ「……なんだその反応」
太宰「いや別に。君に殺されたこと思い出しただけ」
集合場所に、俺はユイハとしてではなくガブとしていた。
今まで吸収した異能に、分身がある。
どちらも本物の俺で、片方が|異能空間《ワンダーランド》にいれば消滅することはない。
ガブ「俺の姿は?」
谷崎「僕の異能で、とりあえずユイハ君以外は見えないようにしています」
国木田「花袋が防犯カメラをハッキングした。ユイハの姿は残らない」
太宰「ほらね、凄いでしょ?」
ガブ「何でアンタがドヤ顔なんだよ」
はぁ、とため息をつく。
なんかもう、太宰治はいいや。
太宰「敦君や芥川君は別行動にしてもらったよ。その方が良いだろう?」
ガブ「……始めるよ」
もう、話す理由はない。
???「あの!」
声が聞こえた。
振り返るとそこには、一人の女が。
中也「……この女」
太宰「例の組織の長だね」
早速釣れた、と太宰治の声が聞こえた。
女「ガブリエル様ですよね! 私“七人の裏切り者”の皆さんが大好きで……スタンダード島事件で亡くなったとばかり……」
ガブ「落ち着いてくれ。確かに俺はジュール・ガブリエル・ヴェルヌだが、君に好かれるような人物じゃ──」
女「お会いできる日を、ずっと待ち望んでおりました……!」
此奴、話を全く聞かねぇ。
でも接触できれば、此方のもんだ。
ガブ「えーっと、とりあえず離してもらえるか? 俺、ルイスと約束があるんだ」
女「ルイス様と?」
ガブ「早くしないと約束に遅れる。悪いな」
女「待ってください! 実は先程ルイスさんを見かけたんです」
どうやらルイスは事件に巻き込まれて重傷らしい。
それをこの女が面倒見ていると。
よくこんなすぐに嘘が出るな、此奴。
そんなこんなで、俺は例の組織の潜伏場所へとやって来た。
暗証番号が入れられ、対異能金属の扉が開く。
この先に彼奴がいるはず。
ガブ「──!」
異能金属の扉がしまった。
太宰達が入れているから捜索は任せよう。
ガブ「ルイスはどこに?」
女「案内します」
次の瞬間、後頭部に走る痛み。
ガブ「……どういうつもりだ」
女「確かに当たりましたよね? はぁ……ルイス様のようには行きませんか、流石に」
ガブ「やっぱりアンタか。ルイスに毒でも盛ったか?」
女「えぇ」
視界が揺れる。
対異能金属の扉のせいで、ぶち破って逃げるのは無理。
もう奥に行ったから、俺を助けるやつはいない。
女「それでは、また後程お話ししましょうね」
ガブ「く、そが……!」
俺が目を閉じると同時に、銃声が響き渡った。
???「大変そうだな、ガブ」
女「……アンタ、誰?」
???「俺を知らないのか!? 俺は偉大なる大怪盗ルパンを超える男!」
声の主は仁王立ちで格好つけていた。
デデン、と効果音が付きそう。
ネモ「その名もネモ!」
ガブ「……な、んで」
ネモ「何で自身を一度殺した相手を助けるか、という質問で良いか?」
女「邪魔をするな!」
ビルゴ「か、確保!」
ネモ「流石はビルゴだ!」
ビルゴが女を抑え、ボスが即座に縄で縛る。
そういえばボスもビルゴも盗賊を続けていたんだっけ。
ビルゴ「大丈夫ですか、ガブ」
ネモ「この程度で人は死なない。ルイスのために敵地へ足を踏み入れるとは、成長したじゃないか」
二人が温かく声をかけてくれたかと思えば、地面が揺れた。
奥から眼鏡とシスコンが走ってくる。
今のは中原中也が異能を使ったからか。
国木田「今すぐ逃げるぞ、ユイハ。思ったより仲間が多く、俺達だけでは手に負えない」
谷崎「ルイスさんは預かってた鏡で異能空間に送れたよ。太宰さん達が足止めしてくれてるけど、急いで逃げないと」
国木田「……む、其奴らは」
また太宰が何かしたな、と眼鏡はため息をついた�。
ボスは元から俺が苦戦すると知っているような口ぶりだった。
太宰治が何らかの方法で連絡を取り、協力させた。
それも、俺がやられそうな直前に現れるようにして。
ネモ「とりあえず敵が来るからここを出る、ということだな!」
ビルゴ「眼鏡の方、先程の会話から推測するにまだお仲間がいますね?」
国木田「あぁ。合流次第、ネモの異能を使い脱出したい」
ネモ「この大怪盗ネモに任せろ。ガブの仲間なら助けない選択肢はない」
だが、とネモは俺を抱き上げる。
ネモ「貴様らはガブと先に脱出しろ。出血が多いから、早く医者に見せた方がいい」
国木田「……怪我したのか」
ガブ「そう心配しなくても、大した傷じゃない」
谷崎「でも血が……」
大丈夫。
そう云おうとしたが、俺の意識は遠退いていった。
何でボスとビルゴが出てくるんだよ。
僕に関しては出番ゼロだね。
太宰治と中原中也に助けてもらえたからいいだろ。
結局女の目的は何だったんだ?
それ、ここで話す内容じゃないって。
良いだろ、一応あとがきなんだから。
いよいよ最終回だね、次回。
どうなるかは、明日の海嘯にしか判らない。
ま、どうせ探偵社の医務室で目覚めるんだろうけど。