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第二話
任務が終わり、乃愛とルカは、代表に任務の報告をしに行った。
コンコンコン___ ガチャ
「失礼します。代表、任務は無事完了しました。」
「そうか。ご苦労だった。休んでいいぞ。」
特徴的なシルバーグレーの髪にこちらを観察するような淡紫色の瞳、彼こそがこの【ノクティア】という組織の現代表のシオン・グレイであった。
「はい。ありがとうございます。」
「…夜闇の豹、すまないが少々話したいことがある。少しここで待っていてくれ。」
「りょーかいです。」
ルカは隊長兼副代表であり、よく2人で組織について話をしているのを見かけたりする。今回もその類だろう。
「隊長じゃあ俺、先帰ってますね。」
「おっけー。気をつけろよ〜。」
流石にこの場に居座るわけにもいかないので隊長を置いて、先に帰ることにした。
(……暇だな。)
思っていたよりも任務を早く終わらせられたので、この後は少し暇になってしまった。
(…せっかくだし、街にでも行ってみるか。)
そう思い、乃愛は近くの街へ足を運んだ。
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ガヤガヤガヤガヤ
昼間の街は思っていた以上に賑わっており、人の多さに乃愛は少し圧倒される。
(…気を抜いたらすぐに迷子になりそうだな。)
今回は特に連れもいないので迷子になったらどうしようもない。
(最悪の場合、|瞬間移動《テレポート》すればいいけど、)
この世界では能力を持つ者__能力者が存在する。だが、能力を持たない者の方が圧倒的に多い。能力者は、普通の人より能力がある分、その力を活かして社会で活躍することがある。
(まぁそうじゃない場合もあるけど…、)
ドンッ
「すみません。大丈夫ですか?」
考え事をしていたら、人にぶつかってしまった。
「…ッチ」
短い舌打ち。
冷たい視線を向けられ、乃愛は小さく肩を落とす。
(……ちょっと、感じ悪いな)
能力者を“普通じゃない”と蔑む者。
能力者を“便利な道具“として扱う者。
逆に“神の使い”のように崇める者。
この世界で能力者が完全に受け入れられることは、滅多にない。
(……あっそうだ!この辺りに美味しいスイーツを売っている人気なお店があるんだっけ)
( 隊長とシオンさんにも買って帰ろうかな…。)
そのお店は街の中でも特別人気で、一日五十個までのスイーツを売る超人気店。
しかも営業時間は朝から夕方まで。なので、仕事が休みの日以外にそのスイーツ屋さんのものを買うどころか、行くこともほとんどないのだ。気を取り直して乃愛は近くのスイーツ屋さんへ向かった。
スイーツ屋さんは相変わらずの人気で今日も行列ができている。
(今日はいつもほど混んでないかな?)
乃愛は運良く行列に並ぶことができた。
沈んだ気分もだんだんと戻っていき、乃愛はそのまま順番を待つ。
待っている間、乃愛は街の様子を眺めていた。
20分ほど並んでお店へ入ると、たくさんのスイーツがショーケースに並べられていた。
(俺は、抹茶ケーキで、隊長は、チョコケーキで、シオンさんはショートケーキでいいかな…?)
「お会計、合計で10000円です。」
「はい、えっと、財布…」
………ない。
……ない。
…ない。
財布がないのだ。
(来る時は持ってきてたはずなのに…!なんで!?)
脳裏に浮かぶ光景。
──さっきぶつかった、あの男。
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ドンッ
「すみません。大丈夫ですか?」
「…ッチ」
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(…………やられた。)
(財布、盗られた…。)
このままではスイーツを買うどころか、スイーツ泥棒として犯罪者扱いされてしまうかもしれない…。犯罪者のようなものであってはいるのだが、それとこれとでは話が違う。それに隠密部隊副隊長のくせして、財布を盗られたなんて組織に…いや隊長に知られたら…
頭に浮かぶ、隊長の顔。
「…乃愛、財布取られたのか?隠密部隊副隊長なのに?マジかよ…?……いや、笑ってないってw後輩の悲しい事件を……笑うわけ、ねぇーだろっw!」
(……屈辱だ。)
(くそっ…浮かれすぎた……。どうする?急いで財布を取り返しに行く?)
並ぶ時にそれほどまでに混んでいなかったからお店に入れたものの、今から取り返してもう一度並べば、間違えなくお店は閉まっているし、スイーツも売り切れてしまっているだろう。
(財布を盗られたと事情を説明してみる…?)
それもきっと無駄だ。一体どこの誰だったら説明して、「そうですか、なら待ちますよ。」なんてことが起こるのだ。ましてや、ここは人気店だ。1人1人に丁寧に対応するほど暇ではないだろう。
(終わった…。)
乃愛がどうしようと呆然と立ち尽くしていると、
「あの…お客様?」
(しまった…。)
気づけば乃愛の後ろには長蛇の列ができていた。
(取り合いず、スイーツを買うのは一旦諦めて、財布を取った犯人を探そう。…スイーツはまた今度買おう。)
「すみません。買うのやめます。…キャンセル、してくださ__」
「__あの、すみません。それ、僕が払います。」
「…え?」
乃愛が振り向いた先に、見知らぬ青年が立っていた。