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第十一話 雨夜、ミーティング
お久しぶりです。
これからゆっくり進めていくつもりです。
「あははははは! うるさい! うるさい!」
春冷が狂った叫び声を上げる。うるさいうるさいと叫んでいるが春冷が一番うるさい。銃声をかき消しかねん勢いだ。
一方、他のやつらは淡々としたものだ。事務的に昇降口からわき出てくるエネミーを撃ち殺していく。雨夜の仕事はあってないようなものだ。暇である。
『いつも通りだねー』
夕守の間延びした声で呟く。いや待て、これが通常営業だなんてイカれている。春冷のせいで感覚が麻痺しているのだろうか。
春冷はすごい勢いで弾をうちつくし、マガジンを交換しまくっている。あんな勢いだとすぐなくなりそうだ。
やがて、エネミーが出てこなくなった。とたんに春冷がぴたりと黙る。唯一うるさかったやつが黙ると、自然と沈黙が生まれた。
…………。
『……ところでみんなさー、乾パンについてる砂糖菓子って金平糖と氷砂糖どっちが好き? ロクは金平糖が好きなんだけどさ、だってあれってころころしてて可愛いし。でもこないだ聞いたら司令部のみんな氷砂糖派だっていうんだよ、長く口に残って効率がいいからだってさ。みんな合理的すぎない? あ、でも琥珀くんは金平糖派だったなあ、やっぱり5歳だよね。椎名くんとすごい違いだよ、あの子ホントに6歳? 椎名くん、こないだなんか』
『夕守さん?』
突如始まったマシンガントークを、冷ややかな声が止めた。
『報告が先ですよ?』
『……だって、あんまり静かでロクが消されそうだったし……』
『言い訳はいりません。任務中です』
『……はぁい』
怖い怖い。こちらにまで冷気が伝わってきそうである。桜庭が夕守を叱りつけている光景が目に浮かぶ。
『じゃあ、報告するね』
夕守は、バツが悪そうにこほんと咳払いをしてから言った。『三階、四階にはけっこうエネミーが残ってたけど、ほとんど倒したよ~』
へえ、と雨夜は感心する。離れたところからそんなにも当てるのは、存外難しい。雨夜も対人ゲームで狙撃銃を使うのは苦手だったものだ。
『いえーい』
そこで、昼神がゆるく歓喜する。……せっかく抱いた尊敬が台無しだ。
『もちろんだけど、私がちゃんとできるのは。上手かったよ、朝霞も。ちゃんと当ててた』
「へえ、やるな」
逢沢が
『ただ』
夕守の声が、緊張を増した。雨夜もつい背筋を伸ばす。
『屋上にいる奴らが、倒せない』
少し離れたところにいる鴇崎が、訝しげに問う。
「なんでです? 新人の朝霞はまだしも、それなりに経験のある狙撃手ーーましてや昼神に、当てられない距離ではないでしょうに」
逢沢といい、やたらと新人を馬鹿にしてくるきらいがある。舐めないでもらいたいものだ。
それにしても、昼神の狙撃スキルは他の隊員から見ても卓抜しているのか。雨夜はそっと息を吐く。
鴇崎の問いに答えたのは、夕守ではなく昼神だった。
『できたよ、当てるの』
「なら、どうして」
『|防がれる《・・・・》』
昼神の声に、不満と苛立ちが滲んだ。
『察知されて、防がれる。関係ない、当たるとか当たらないとか。硬い、圧倒的に』
雨夜は信じられなかった。
まさか。紛い物とはいえライフル弾が、そう簡単に防がれるなんて。どれだけの硬さだ? それこそ、ダイヤモンド並みだ。
「強化版か、しち面倒臭えな」
逢沢が舌打ちをして毒づく。
「強化版?」
雨夜は反射的に訊く。
「たまにいるんだよ。バケモン揃いのエネミーの中で、さらにけた違いなやつが」
逢沢はそれだけ言って口をつぐんだ。
「死ぬなよ」
そして、それだけ言い添えた。あたりの空気が張り詰めていく。呼吸も許されないくらいの静寂の中、鴇崎が、ひどく無感情な声で沈黙を破った。
「スナイパーを除く、鴇崎隊、昼神隊連合。……屋上に突撃します」
誰かが、武器を握りしめる音がした。