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【第一日目】「名前ヲ呼ブト死」(前編)
「(名前を呼ぶと死…か。今日は誰かに話しかけるのはやめておいたほうがいいか…?)」
あの凄惨な光景を見たにも関わらず、蓮はその場に佇んだまま、顎に手を当ててその思考をフル回転させながら、冷静に状況を見据えた。
自身以外にもまだ他の人は沢山いるが、その大半が先ほどの光景を目の当たりにしたことによって、怯えて体を振るわせ、その場から動かずにいた。
「(まぁ、あまり勝手な行動を取られたらめんどうだからな…。)」
牽制するような冷たい視線を周囲に向けた後、空中に浮かぶモニターへと視線を移す。一日目のルールが終わるまでの、タイマーがそこには赤い文字でいつの間にか表示されていた。
【`24:38.21`】
まだ1時間も経ってすらいない。スマホは電源は入るが、何故か外部からのハッキングによって新しいパスワードが掛けられており、自分が設定したはずのパスワードが書き換えられているため、使い物にならない。
「…ほぼなにもないが─。」
蓮が独り言を呟いた瞬間、突如としてシュッと空を切り裂く音が蓮のすぐ側で響いた。刹那、頰にピリッとした痛みが走る。
ナイフのような鋭い刃物が掠めたのだろうか。血が頰からタラリと流れ、その輪郭をなぞるように伝っていく。
「誰だ…?」
頰に流れる血を片手で拭いながら眉を顰め、自身に傷を与えた犯人を見つけようとするが、人が多すぎる。
何十人もいる中、ましてやルールで行動が制限されている中、無闇に犯人を探して自爆するのはごめんだ。
「ねぇ、ドームの端行ったらどうなるんだと思う?僕は死ぬと思うんだよな。で、すぐそこだけどあんた行ってこない?」
思考に耽る蓮の近くに、つなぎの袖を腰で巻いた、作業員を思わせる風貌の男性─狛曇琥珀が歩み寄ってくると、ニコニコと食えない笑みでそう喋りかけてくる。
蓮は眉間に皺を寄せ、舌打ちを一つすると、青白い光の線(ドーム)へと歩み寄り、手で触れてみる。
静電気のような電流が手に流れ、バチッと音を立てて弾かれる。先ほどドームの外に逃げようとして死んだ人間とは違い、目に見えてわかるほどの逃げる意思などを持っていなければ、殺されはしないのだろう。
一つ分かったことが増え、心の奥底にある不安はほんの少しだけ取り除かれる。
ふと、ドーム内にある近くに立っているマンションが目に入る。そちらの方へと足を運び、マンションの中へと足を踏み入れる。
さっきまで綺麗であったはずのマンションの中は、何処か薄暗く、廃墟のような雰囲気を晒し出していた。事実、ビルの壁や床など所々ひび割れていたり、蜘蛛の巣が張っている所もある。
何か使えるものはないかと、足元に注意しながら、スマホの電源を入れてライトをつける。
「ねー、あんた、何してんの?」
背後から声が聞こえる。振り返ると、そこには、先ほど関わってきた狛雲が立っていた。何か自分に用があるのだろうかと一瞬思ったが、この男と面識は一切ない。
「…何か使えるものがないか探していただけ。」
冷たい視線を向け、興味なさげに狛雲から目を逸らす。ルール上、自己紹介をしようにも名前を呼ぶと死ぬため、お互い名乗れない状況だった。
それに加え、蓮の野生の勘がこの男とはあまり関わるなと警鐘を鳴らしている。昔から自身の勘を信じて行動してきた蓮にとって、この勘は間違っていないと、確信が持てていた。
「え〜、素っ気ねぇ〜。」
狛雲は冷たい態度を取られてもあまり気にしないように、ヘラヘラとしながら蓮と同じく探索をしようと思ったのか、階段を登っていく。
それを横目で見て、掴みどころがないなと思いながら、蓮はスマホのライトで周囲を照らしていく。
「あの…僕も手伝いましょうか?」
突然丁寧な口調で声をかけられ、声がした隣へと視線を向ける。カジュアルな服装をした、優しげな青年のようなイメージを持つ男性、伊吹幸人が立っていた。
「名前は名乗れませんので、警戒するかもしれませんが…。」
「…別にいい。勝手にしてくれ。」
今はあまり関わりたくないという拒絶のオーラを全面に出しながら、吐き捨てるように言った。
「…分かりました。」
そんな蓮のマイペースな様子を見て、伊吹は片眉をピクリと動かしながらも、スマホを取り出し探索をする。
その二人の様子を、陰からじっと見つめている者がいた。
「必死になって、バカだなァ…♪」
彼は不気味な笑みを浮かべてそう呟くと、踵を返してその場から離れていった。
【今回の出演者】
・綺堂蓮
・狛曇琥珀
・伊吹幸人
・???
中編へ続く─