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第2回 まじないなんてできません!
自己紹介が終わった放課後。
わたしはつるむこともなく、真っ先に家に帰る。スマホで時刻を確認して、歩道橋を渡って___
「うぇーい!」
あ、小学生男子だ。小4ぐらい?
そう思ってると、バタッとぶつかられた。
「キャッ」
意外と悲鳴は小さくてか弱い。
だけど、ふと目を開けると、地面に歩道橋の緑がない。右手はしっかりスマホを握ってる。ああ、ぶつかられたから歩道橋から落ちたのか。
___死ぬじゃん!!
そう思っても悲鳴はあがらず、どんどん意識が|朦朧《もうろう》としてくる。
もっとキラキラライフ、送りたかったな…
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…うーん、うーん…
バッと起きる。奇跡的に助かった?いや、まさか。真上から落ちたんだ、あの距離で死なないのは常人じゃない。
それにしても、服が薄着だ。もっとニット着てたのに。…なにこれ、この薄っぺらい白い服!?
「姉様っ」
「うぇっ!?」
そこには…うーん、微妙な美男子。って、「姉様」って何!?わたし、一人っ子なんだけど?
「どっ…」
「どういうことでございますか、早くまじないで政治のあり方を決めてください」
…まじない?政治?
この言葉の積集合で導かれるのはただひとつ。『卑弥呼』、だ。
卑弥呼。弥生時代にまじないでくにをまとめ、導いた謎の邪馬台国の女王。いるかどうかも不明で、わたしの推しの一人だ。
「わたしって…卑弥呼?」
「どういうことですか。ヒミコ、は、渡来人の呼び名ではありませんか、姉様」
「…ああ、そうだった、わね。あはは、ちょっと疲れたみたい。じゃあ、まじないをするわね」
…って軽ーいノリで言ったけど…わたし、まじないなんて、くに統一なんてできません!
まじないなんてできないし…早めに抜け出さないとっ。
「ごめんっ、ちょっと疲れちゃって。また今度にできない?」
「…でも、姉様はいつも働いてます。どうぞ、ゆっくりお休みください」
よしっ、これで抜け出せる。
ひとまず、髪飾りとかの類をすべて外して、教科書で見た農民風に。万が一豪華に見えても、指導者の方が卑弥呼より断然良い。
ハシゴを降り、わたしは石包丁を手に取った。
「お前」
「はっ、ひゃいっ!?」
うわ、いかつそうな男の人…この人が、かしらなのだろうか?豪族、いや王?
「見ねぇ顔だな。部外者か?」
「いえ……」
うぅぅ、否定できないぃ。
「とっ捕まえろ、部外者だあーーーっ!!」
ひえええっ!?やめてぇええ!?
あ、ヤリがここに迫ってる…やだよ、卑弥呼を偽って死ぬなんてさ…
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「わぁ!?」
緑の地面。ここは…歩道橋?
「あなた、歴史旅行者っ!?」
そうぐいっと手をひかれた。えーと…誰ですか?
「えーと…すみません、誰ですかね?」
「|橘紫《たちばなむらさき》、ってとこだけ教える。あ、父は|青《あお》、母は|緑《みどり》、小4の妹は|赤《あか》」
うおー、すごい安直な名前。紫って…しかも、めっちゃ気が強い。
「んで、話をそらさないで。歴史旅行者って言ってるのっ!」
「れれれきしりょりょこうしゃぁ!?」
歴史旅行者って何?
「あー…えーと、例えば縄文時代とか、安土桃山時代とかにタイムスリップした人のこと」
「…は、はい…弥生時代にたいむすりっぷ?して、卑弥呼になりました、逃げちゃいました…」
「何をせがまれてたの?」
「まじないをして、くにの方針を決めろって…」
「あー…」
ううぅ、なんかやっちゃいました?
「ま、まだ軽めってとこ、ね…逃げたの、懸命な判断だわ」
「けっ、懸命な…?」
「ま、もし下手なまねをしたら飛んでくるから」
そう言って、紫さんはふいっと消えてた。
え、え、わたし、何かやっちゃいましたぁあ!?