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絵画の魔女が絵に戻る時
--- 絵画の魔女 ---
もう限界かもしれないと思ったのはほんの数日前だった。いくら『絵画の魔女 ドロシア』といえど限界があるのは分かっていたわ。
昔、世界を絵画にしようとしてピンクの勇者に封印されて力を失ってしまったけれど今では当たり前のように絵から出て外の世界を楽しむ事が出来た。だけどたまに絵の中に戻って少しずつ魔力を回復させているとはいえ、今の私には絵の中から出てくるには大量の魔力が必要だったの。それももう尽きようとしている。きっと次絵画に戻ったら2度と絵の外に出ることは出来なくなってしまう。
そう考えると残るのは未練ばかりで、どうしても絵に戻りたくなくなってしまうの。もちろんまだやってみたい事があるというのもあるけど、妹達の事やお世話になった人達に何も返せなくて申し訳ないという思いもあるわ。
だけど…1番の未練はこんな自分に1番良くしてくれた、封印された私が外に出るきっかけになってくれた、私にいろんなことを教えてくれたあの人に私の気持ちを伝えられない事。
こんな事…他の人に言えるわけがないわ。だから私は手紙を残してみんなが寝た夜にひっそりと絵に戻ることにしたの。だって誰かに言うと本当に戻りたくなくなってしまうし、それを知った人の悲しむ顔を見たくなかったもの。
そして私は今ーーーー
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--- ドロッチェ団の団長 ---
ドロシアの様子がおかしいと思ったのはほんの数日前だった。いくらドロシアであろうとこの『ドロッチェ団の団長 ドロッチェ』の目は誤魔化せない。
数年前に呪われた絵画があると聞き、興味本位で盗んでみると、まさか絵の中から魔女がでてくるとは思わなかった。しかも前にオレをケーキを盗んだ犯人だと思って戦ったカービィに世界を絵画に変えようとして封印されていたとは。
最初に会った時、ドロシアは自分の力を恐れてまともに話してくれなかった。だが話を聞くと本当は普通に絵の外へ出て妹達と一緒に暮らしたいこと、しかし昔世界を絵画に変えようとしたことを根に持って外に出てこないことなど、本当の気持ちを話してくれた。だからオレは彼女にもう自分の事を恨んだりしている人がいない事、絵画じゃない世界の良さとかを教えたくて彼女を必死に説得した。
最初は耳を貸す事すらしてくれなかったが次第に絵から顔を覗かせて楽しそうにオレの話を聞いてくれた。そうしていくうちに彼女は絵の外に興味を持ってくれて…そして今はドロッチェ団の仲間と楽しく暮らしていた。
しかし最近の彼女は明らかに様子がおかしい。楽しそうに話していてもふと悲しそうな、寂しい顔をする。
まさかと思った。彼女は一度カービィ封印されたので魔力が減っている。前に絵の外に出るには大量の魔力が必要だと言っていた。もしかして彼女は自分の持つ魔力が残りわずかだと悟りもうオレ達といられない、そう思ったのではないだろうか?だとしたらドロシアは…もう時間がない。部下たちに手短に理由を話す。
そしてオレは今ーーーー
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(あぁ、もう本当に戻れないのね…)
少しずつ額縁の中に戻っていく自分の体を見てドロシアは本当にこれが最後だったと悟る。
「ごめんなさいね。ドロッチェさん…何も返せなくて、貴方のおかげで私は幸せだったわ。こんな私に今まで良くしてくれてありがとうね。さよなら…」
ドロシアが最後にお礼と別れの言葉を言い、半分以上絵に戻った体を見ていると
バンッ
急に扉が開いたと思いきや現れたのは今はもう寝ているはずのドロッチェだった。
「ドロッチェさん!どうして…」
「1人になんてさせてやるか!」
ググ
ドロッチェが絵に手を押し込むとドロッチェの手が額縁の中に吸い込まれ、ドロシアのようにどんどん絵になっていく。
「ダメッ!ドロッチェさん!やめて!そんな事したら貴方まで絵になってしまうのよ!元々絵ではない貴方は二度と戻って来られなくなってしまうわ!」
「愛する人を永遠に1人にさせるよりはマシだ。」
「!」
「ドロシア、愛してる。たとえ君が世界を絵画にしようとしても、絵に戻ってしまっても、何十年先もオレは君だけを愛してる。」
そう言うと絵になっていない方の手でドロシアを抱きしめる。
「ありがとう…ドロッチェさん…私も、私も愛してるわ。貴方がどこに行ってしまっても、どんな姿になっても、私は永遠に貴方だけを愛してるわ。」
ドロシアがふと部屋の入り口を見ると寝ているはずの妹達やドロッチェ団の皆が泣いていた。みんな知っていたのだ。これが最後だと。
「みんな…ごめんなさいね…先にいってしまって…それとありがとう。ペインシア、ビビッティア幸せになってね」
「うぅ…お姉様」
「うわぁ〜ん!」
「お前達、ドロッチェ団をよろしくな!」
「団長がいなくちゃドロッチェ団じゃないっチュよ…」
「寂しくなるのう」
そうしてドロシアとドロッチェは姿を消した。残ったのは泣いているドロシアの妹達とドロッチェ団の団員達、それと美しい男女が幸せそうに抱き合っている1つの絵画だけだった。