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新月の夜
毎月やってくる、新月の夜。魔力を吸収してくれる月が完全に隠れて、マレウスは膨大な魔力を持て余していた。
いつもはさほど驚異ではないはずなのだが、不運にも今日は調子が悪かった。人形態のまま、意図せず尻尾が生え、耳の色も形も、竜に変わっている。
黒い爪も鋭いものに変わり始めた頃。扉からノック音がした。
立ち入り禁止のはずだ。不審者の気配に、一気に警戒心が増す。低い声を出す。
「誰だ」
扉を開いてきたら炎を吐くつもりで身構えていると、扉の向こうから声がした。
「アンタの恋人ですよ。開けていいですよね。つーか開けるわ」
開かれた扉の隙間から、エースの顔が見えた。
「入っていいでしょ? マレウス」
「……許す」
口の中に込めていた炎の気配は、もう消してある。
入室したエースは扉を閉める。ベッドに近づき、乗り上がろうとした瞬間。大きな手がエースを引きずり込んだ。
「エース……」
爪を当てないよう注意しながら、マレウスはエースを組み敷く。くちびるを深く重ねる。エースが発狂しない程度に、魔力をエースにゆっくりと送り込む。
送れた魔力は微々たるものなのに、エースに触れているだけで、ずいぶんと楽になれた。
くちびるを解く。ため息を深くつきながら、エースの上で脱力する。伏せた顔は、エースの顔の真横に落ち着いた。
マレウスとベッドに思いきりサンドイッチされたエース。「ぐえ」とうめいた後、抗議する。
「重いんだけど!?」
「もう少し、このまま……」
「……病人じゃなかったら剥がしてるとこだからな」
「ははは。恐れ知らずなやつだ」
「はあ……スマホくらい持ち歩いといてくださいよ。すぐにお助けメッセージ送ってくんなきゃさあ、こんな土壇場になんないと助けらんないじゃん」
「あれは苦手だ」
「ドラコーンは大事にしてるくせに……」
文句を言いながら、エースはマレウスの耳を指でいじる。いつもの尖った耳に戻っていた。