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【読切】恩赦願う
僕は深夜の学校に来ていた。
どろ〜ん、ひゅぅう……みたいな効果音が勝手に脳内でつけ足されるほどの雰囲気。
地方の学校といえど今は令和なので、改修工事も進んでいるのだが、それでも暗くて人がいないというだけでこんなに怖くなるものなのか。
巡回の警備員さんを気取るように、教室を順々に覗いていく。
もちろん誰もいない。
“人間は”ね。
教室を巡っていき、突き当たりの空き教室を覗くと、
「よーッス、久しいなァ〈少年〉!」
などという場違いに明るい声が聞こえてきた。__天井から。
「お久しぶりです、〈センセイ〉」
見上げると、イタズラっ子みたいな笑顔を浮かべたスーツ姿の男性__〈センセイ〉がそこにいた。
「一瞬、蛍光灯かと思いましたよ。相変わらずですね」
「まーなァ! かかっ、お前も相変わらず暗ェな〜!」
バシバシと背中を叩いてくる〈センセイ〉に、僕は苦笑いを零す。
「そのノリ、もう現代じゃキツいと思いますよ、〈センセイ〉」
「マジで? 世知辛ェもんだぜ」
はあっと芝居がかったため息をつく〈センセイ〉を無視して、
「どうですか、住み心地は?」
「いやァ~どいつもこいつもいい子ちゃんしやがって、胸糞悪ィぜ。ま、そういうヤツらのおかげで俺らはやっていけてるわけだし、あんま文句も言ってらんねェがな! 感謝感謝だぜ、全くよォ!」
かっかっかと、豪快に笑い飛ばす〈センセイ〉。
そこでふと、表情を暗く、黒くして
「んで? おめーは、もう戻る気はねェの?」
「戻る気って?」
とぼけて訊き返す僕を、〈センセイ〉はギリっと睨んだ。
睨む目は、ないのだが。
あるのは空っぽの眼窩。
「“こっち”に戻る気はねェかって訊いてんだ__皆まで言わせんなよ、コラ」
黒光りしているように見える、妖しい笑顔で〈センセイ〉は言った。
「人間に戻ってみて、どうだ? 何かいいことはあったか? 嫌なことのほうが多かったろ? 嫌じゃねェか、そんなの__仲間と駄弁って、たまにイタズラして、そういう楽しい生活に、また戻りたくはねェのか?」
……確かに、それはとても魅力的な提案だ。
けれど__、
「僕は、やめておきます」
「は? んでだよ」
「確かに、嫌なことばっかりですが__それでも僕は、そんな人間を、愛おしいと思うんです」
顔をしかめる〈センセイ〉に清々しい微笑を向けると、
「残念だ」
と言った。もうさっきまでの恐さはなくなって、また気さくな笑みに戻っていた。
どこか吹っ切れたようであった。
「じゃァま、人生楽しめ。死んだらまた俺んとこ来い」
ぽんと僕の頭を叩き、〈センセイ〉はそう言った。
「ほんとに……羨ましいぜ」
「死ななくても来ますよ。色んなこと、また話しましょう」
だからそれで勘弁してください。
僕がそう言うと、〈センセイ〉は、にいっと口角を上げた。
「そりゃァ、あんがとよ」
どこか吹っ切れたような声が、誰もいない校舎に落ちて、溶けていった。