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    学校、休みたい
    
    
    
    正面玄関へ向かうと、お母さんが立っていた。
「愛菜…!」
お母さんが少し声を大きくして言う。
「大丈夫?心配したのよ。帰って休もう」
お母さんのこんな様子が少し珍しくて、私は驚いた。
家に着いた。
お母さんに、今日は部屋で休んで、と言われた。
取り敢えずベットに寝転び、ぼーっと宙を見つめた。
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「…あれ」
うっすらと目を開けると、風でふわっと漂ったカーテンが目の前を通りすぎた。
「寝てたの…?」
呟いた。
もちろん返事は無い。
「ご飯できたわよー」
お母さんの声。
「はーい」
適当な返事を返しながら、体を起こす。
目を擦りながら、階段を降りる。
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「ん…あれ…」
耳元でスマホがアラームを鳴らしている。
「ん…朝?」
「起きなさい、学校よ」
『ガチャ』
そう言いながらお母さんが部屋のドアを開けた。
あれ…?ん、あれ…。
「お母さん…私、階段降りてたはずじゃ…」
「何?夢での話?」
「夢だったのかな…倒れて、早退したの…」
「何?昨日のこと?」
「いや…お母さんに、ご飯だよーって呼ばれたところらへんまでしか記憶がなくて………何でもない」
「え?」
「あ…あと、あの…」
「ん?」
「学校…休みたい」
不思議なほどすんなり口から出ていたその言葉。
後から私はハッとして、慌てて「あ…え…」と変な言葉を続ける。
「…まだ体調も心配だし、1日くらい休む?」
「え…」
お母さんにそう言われた。
「…うん」
答えた。
…でも、心配かけちゃうから、いじめのことは言わなかった。
言おうかなと少しは思ったけど。
突然何でもない日にそんなこと言ったら…と思って、やっぱり、やめた。
明日からも、心配かけちゃうから学校、行かないと。
休めるのは、今日だけ。今日だけ。今日だけ…。
自分に言い聞かせるように、頭の中で「今日だけ」を繰り返す。
胸がぎゅうっと痛んだけど、何でもないふりして、お母さんに"嘘の"笑顔を向けた。