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後日談
後日談:霧の記憶、風の声
都市グレイフォグの第七居住区。
あの事件から半年が過ぎた。霧の濃さは変わらず、空の色も相変わらず曇っている。けれど、なぜか、街の空気はほんの少しだけ柔らかくなったように感じられる。
UGP特異事件課に勤める若手捜査官、ミナ・ルーは、かつて“硝子の刑事”と呼ばれたレイン・ノヴァのデスクに立っていた。
今はもう誰も使っていないはずのその席。だが、ある朝、そこに一通の封筒が置かれていた。手書きの宛名にこうあった。
「UGP 特異事件課 行」
誰が置いたのかも、いつ届けられたのかも不明だった。中には一枚の紙が入っていた。
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「感情は、弱さじゃない。記憶も、痛みも、すべてが私を形づくっている。
そして今、私は“感じながら”生きている。
あなたが、もし誰かを失ったなら、
どうか——忘れずにいてほしい。
霧の中にいても、人は消えない。心がそこにある限り。」
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ミナはその文を読み終えたあと、ふと顔を上げた。
窓の外、今日の霧はどこか優しく揺れていた。
UGPでは今、感情分析の制限緩和が試験的に始まっている。完全ではない。だが、以前よりも“怒ってもいい、泣いてもいい”と許される空気がある。
それはきっと、誰かが変えようとしたからだ。
デスクの上には、レインが最後まで使っていた記録端末が残されていた。解析班が調査を続けていたが、どうしても開けないファイルがひとつだけあった。
そのファイル名は、《EL-RAIN》。
「レインとエル……」
ミナがファイルに触れた瞬間、端末が静かに起動した。
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音声ログ起動——認証済み
再生を開始します
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微かな風の音とともに、レインの声が流れた。
「聞こえていますか。これは記録ではありません。祈りです。誰かが、この都市に生きて、誰かを想い、誰かの記憶を抱えて生きていく——それだけで、この都市はきっと、まだ大丈夫」
「霧は、すべてを覆う。でも、霧の奥には必ず光がある。それを知ってほしい。感じてほしい。私は今、その光の中にいます」
音声はそこで途切れた。
ミナはそっと目を閉じた。
そして、まだ誰も座っていないその空の席に、深く一礼をした。
外では、霧の中を誰かが歩いていた。
ゆっくりと、確かな足取りで。
まるでその人が、これからもこの都市を見守っているかのように。
🕊 — 後日談:完 —
__いつまでも__
<いかがだったでしょうか?楽しめましたか?私は何時迄もここに居ます。
これからも愛読して下さいね。>
<`今日という日があなたにとって忘れられない日になりますように。`>