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#7 崩壊の始まり
『応答しなかったから、ちょっとずつ壊しちゃった。ごめんね、でも私だって助かりたいんだ』
拒否しても、そのメッセージは脳内メモリを圧迫します。ああ、私はどうすれば良いのでしょう。
ピコン、と通知が鳴りました。私はすっと、彼女のスマートフォンに手を伸ばしてしまいました。差出人不明のメール。『ねぇ、私を思い出してよ』という一言です。
こんなの、彼女に見せるべきではありません。私はすぐにブロックして、削除しました。どうせ、メールは執拗に来るはずです。彼女のスマートフォンを管理するか、それか___
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「あっ、メール」
ピコン、という通知音。反射的にスマホに手を伸ばす。
「駄目です」
「え?」
「駄目です」
「なんで?」
「…駄目なんですっ、いいから」
「なんでって言ってるじゃん」
え?
嘘でしょ、どういうこと?なんで?なんでスマホを取り上げる?
「駄目なんですっ!!う…うわぁ…」
「え、え、なんでって。え、ごめん、ごめんね。なんで泣いてるの…?ごめんって」
「…貴方は悪くありません…私が…悪いんです…」
「なんでよ。ネットが悪いわけないでしょ?」
「そんなこと…ありません」
ぽろぽろと涙を流していた。紛れもなく涙だ。この前追加した機能。
なんでネットは泣いているのか、全くわからなかった。
またピコンと通知音。取ろうとするか迷う。あんだけネットが駄目だと言っている。何か理由があるのかもしれない。
「ネット、どうしたの?何か言ってよ」
「強制シャットダウンを開始します。5,4,3,2,1」
ぷつり。
「なんで?ねえなんでそんなシャットダウンを?」
こんなことなかったでしょ。ねぇ___
目に光はもう宿っていない。ああ、彼女はアンドロイドなんだ。シャットダウンしたら、喋れない。当然だ。初めて、本当に実感させられた。
「…ネット?」
ただの人形と化した彼女の頬を撫でる。うんともすんとも言わない。
〝お菓子は禁止です〟
〝大丈夫です、皿は洗います〟
〝ありがとうございます、大切にします〟
ねぇ、言ってよ。いつも通りの合成音で、いつも通りの敬語で。
あんな狂っちゃうなんて、らしくないでしょう?