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第3話「Boy Meets Führerin」
Ameri.zip
この作品はフィクションです。また、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【前回のあらすじ】
シイ・シュウリンとその友人らしき男フーゾに連れられ二人の家に向かった落安零。
素性の分からない二人の提案を断るリスクを恐れた彼は、二人と同居することを選んでしまった。
「や~良かった良かった!やっぱオレの考えは正解だったな!」
「いや、全然そんな感じしないけどね(笑)まぁいいや。んじゃよろしく零くん」
「はい…」
結局、二人になにされるか分からなくて了承してしまった…なんと押しに弱いのだろうか、僕。
そんな僕の気も知らずにご機嫌な様子の二人は、今後のことを話し合っている。確かに僕は何をされるか分からなかったから頷いたものの、彼らにも事情はあるはず。考えることを増やしてしまって、申し訳ない気持ちになった。
「そういえばさ、零くんは結局どこから来たの?てか、シイも今までどこ行ってたの」
「あー、それ話さないとねぇ」
確かに、僕はフーゾさんからすれば全然知らないところから来た子供だ。シイさんだって、僕と一緒にいた時間この世界には居なかったということだし、行方が気になるのも当然だろう。てか、僕も気になる。ここは結局どういう位置にあるんだ。
「オレさ、実は《《リミネスト》》に巻き込まれてたんだよ。そんで、零くんとはそこで出会ったの」
(《《リミネスト》》…?なんだそれ…?)
「リミネスト??マジで???…え、なんでそんなことに巻き込まれたの?依頼?」
「いやなんか、不法入国したヤツ追っかけてたら遺跡の方まで行っちゃってさぁ…帰ろ~と思ったときに、急にふぁ~ってなったの」
(遺跡?ふぁ~って…)
「え~?こっちめっちゃ心配したんだけど。遂に死んだか?って噂になってたぞ」
「マ?誰だオレのこと勝手に殺したの」
軽快に二人の話が弾んでいくが、さっきから会話中にちょくちょく登場する「リミネスト」とやらは何なのだろうか。響きが少しだけドイツ語のReminiszenzに似ているが…確か、意味は追憶だったはず…いやでもここ中国語圏っぽいし…
「じゃあなぁに?もしかして零くんって《《旧世界》》のコ?」
「えー多分。最初知らん言葉話してたし」
(旧世界…旧世界…???いよいよ本格的に分からなくなってきたぞ……)
「まぁ真偽はともかくさ、それって他の…それこそ、研究者とかにバレたらマズくね?」
「確かに。良くて聴取、悪くて解剖だな」
「え???」
なんか、凄く物騒な言葉が聞こえた気がする。聴取???解剖???
話の流れでなんとな~くだが…もしかしたら、僕は何か、こう、今現在解明されていない謎の現象に関連している…のではないか?それこそ、タイムスリップのような…
シイさんと出会ったときのことを思い出す。確かあの時、シイさんは「旧世界」と言っていた筈だ。その後も見るもの全てに驚いたり、時々「過去なのに進んでるな~」と言っていただろう。もしかしたら、僕のいた世界はシイさんの世界にとって過去の世界のようなものではなかろうか。
(だとしたら、聴取とか、解剖とかは、まぁ納得できる…嫌だけど…)
「うーん、とりあえず『总统』にだけ会わせる?あの人なら、まぁ…口は堅いし」
「えー?その場で零くんぶっ殺されない?」
(物騒な言葉が聞こえる…)
というか今、总统って言ったか?总统って、確か…大統領?え、あだ名…だよな?
「いけるいける。もしぶっ殺されそうになったら力ずくで抑えれば良いし。どうせ戸籍とか作らなきゃいけないんだからさ」
「ま~それもそっか。よし!零くんお出かけするよ!」
「え、どこに行くんですか…??」
「ん~?まぁ、俺らの職場かな」
剣がぶつかり合う音や、弓が的に刺さる音、そして、恐らく激励の声が重なりあって耳を刺す。大きな門に高い塀、中央にそびえ立つ城らしきものは、厳かな雰囲気を纏っている。門番は二人、中にも訓練中とおぼしき人達が蠢いている。
(軍人、だったか…)
顔パスで入っていった二人の後に続きながら、己の判断ミスに静かに項垂れた。二人はそれぞれ何とか隊隊長と呼ばれていたため、恐らくは軍の、幹部のようなものだろう。
確かにそれなら大統領も納得だ。多分、この国は軍が政権を握っている。であれば、この人たち物凄い偉い人じゃないか。そら顔パスも通るし戸籍も偽造できるわ。人一人養うくらい朝飯前だろう。
(でも、軍人に逆らうってのも怖いし、僕の決断は間違ってなかった…と、信じたい…)
沈んだ気分を誤魔化すために、辺りを見回す。内装は想像通りで、武具や絵画、生けられた花が完璧な位置に置かれている。だが、こういった内装はどちらかというと西洋の方で見られるもののはず。未来となると、また変わってくるのだろうか…?
何回か階段を上り、長い長い廊下を歩いたところで、二人が立ち止まった。彼らの向き直る扉は、他のものより一際大きいというわけでもなく、変わったところもない。何故こんなところに…?
フーゾさんが扉をノックする。少し間が空いた後、扉越しに「入れ」という声が聞こえた。この声は、女性のものでは…?
「失礼します。補佐官フーゾです。シイ・シュウリンと…ちょ~っとワケありのコを連れてきました」
どうやら執務室のような所らしく、本棚やカウチソファ、資料ケースが横に控えている。そしてその中央には、立派な執務机が主を待つかのように鎮座していた。…あれ?なら、声の主は一体…?
「ここだ」
「うわぁっ?!!」
突然左側から声がしてきたため、驚いて情けない声が出てしまう。は、恥ずかしい…
「ふふ、良いリアクションだ。しかし、また連れてきたのか。えー…リンぶりか?」
「そそ。これでもリンより全然歳上なの。えーと、今18だったっけ?かわい~よねぇ」
「あ~じゃあ6歳差かぁ。リンくんもこんくらいになりますかねぇ」
(リン…??僕と同じような子なのだろうか…)
僕の左側にいた人が、前に出てくる。…声からもなんとなく予想はしていたけれど、なんというか、少女すぎないだろうか…???
「ボスよりも2歳上なんですよ」
「ほう?随分と童顔だが、私より年上か」
「え…ということは、もしかして16歳…?」
「ああ、違いないぞ」
彼女がボスと呼ばれていることも驚きだが、何よりも年下なのに、こう…凄まじいオーラのようなものを感じる…。品のある佇まいだし、これは…ボスって呼ばれてても可笑しくないかもなぁ…と納得してしまう。
(…ん?でも待てよ。彼女がボスと呼ばれているということは…つまり、彼女はこの国の大統領ってこと…?!!!)
信じがたい。僕の世界ならまだ中学生くらいではないのか?そんな少女が、一国を背負うなんて。今更ながらに、僕は本当に異世界に来てしまったのだな、と実感した。
「…つまりシイ。お前はリミネストに巻き込まれて、帰ってくるときに現地の住人を引っ張ってきた、ということか?」
「そーなの!名前はねぇ…えーと、何零くんだっけ?」
「あぁ、落安零という者です…お会いできて光栄です」
「こちらこそ。まさか旧世界の人類に出会えるとはな。人生何があるか分からないものだ」
椅子に座って見上げられているはずなのに、何故か見下ろされているような気分になる。一国の王と言われても納得できる覇気だ。
そういえば、この世界では僕のように名字が先に来るような人はいるのだろうか?いやでも、シイさんはすぐに零が名前だと分かってくれたから、存在するのかもしれない…
「申し遅れたな。私の名はクリス・ウィルダート。この国を統べるFührerinだ」
Führerin…?それって、ドイツ語のリーダー…だよな?大統領はPräsidentじゃ…
(いや、もしかして総統…?それなら意味も通じるはず…)
「あぁ、总统と言った方が通じるか?」
「いえ、どちらでも…ただ、訳し方に戸惑っただけですので…」
「ふむ…これは憶測だが、貴様のいた国では中簡語やドルヒェ語は使用されていなかったのではないか?」
「その通りです。僕のいた国では…ええと、|日本人《日本語》という言語が使われていました」
「日本語?変わった名前だなぁ」
「ほう、実に興味深いな…やはり未知の領域に足を踏み込むのは面白い」
どうやら、この世界では日本語は廃れているらしい。そらそうか、あんなわかりづらい言語わざわざ使わないだろう。…しかし、この感じだと英語もないのでは?
「それで、用とはなんだ?まさか、新たに手に入れた玩具を見せびらかしに来たわけではなかろう?」
「玩具て。そーじゃなくて、零くんの戸籍を用意してほしくてさぁ」
僕自身も半ば目的を忘れかけていたため、シイさんの言葉にハッとなる。そうだった、戸籍を用意してもらわないといけないのか。
「ああ、戸籍か。…了解した。あとで情報を送ってくれればすぐに作ろう」
「ありがとうございますボス…急で申し訳ないです」
「気にするなフーゾ。お前にはいつも私の右腕として役に立ってもらっているからな」
「どうも」
フーゾさんとクリスさんはどうやら上司部下の関係らしい。…が、シイさんは一体何者なんだ。もし仮に隊長だったとしたら、自分の上司にタメ口のヤバいやつということになってしまうし…
「てか良い加減、シイもちょっとは敬語使えよ。めっちゃ不敬だかんな」
「えーでも許してくれてるしなぁ」
ヤバいやつだった。なんて人だ、信じられない。上司とはいえ、自国の総統に馴れ馴れしいシイさんもそうだし、それを笑って許しているクリスさんも…割とどうかしてる。この人達のせいで、今の所この国にはヤバいやつしか居ないという認識になってしまった。
あの後少しだけ旧世界の生活をクリスさんに話して、今はシイさんたちに連れられて家に帰っている所だ。いつの間にか空はオレンジがかって来ている。
今日は、本当に色んなことがあった。異世界に転移してきて、知らない人と同居することになって、あと、国の総統とも会って話をした。そのせいで、急に疲労がやって来る。
「や〜、なんか色々大変だったけど、一旦は大丈夫そうでよかったぁ」
「俺も〜。零くんが可愛くてよかった」
嗚呼、なんか本当に眠たくなってきた。絶対に寝たらいけないんだけど、いけないのに…睡魔が…
「あ、そういえば零くんって兄弟とか…あら?」
「もしかしておねむかな…?」
う、倒れそう…ヤバい…
「あらま。寝ちゃった」
「え~シイよっかかられてんじゃん、羨ましいなぁ」
「これが信頼の差ってやつ」
「腹立つわ~…」
「…零くん疲れたよね、おやすみ」
◇To be continued…
【次回予告】
「そうそう、零くんもオレらと一緒に暮らすなら迷惑かけても良い!ってこと分かって欲しいよ。」
「僕に仕事させてください!お願いします!!」
「…ただ、もしこの仕事が無理なら、仕事をするのは諦めてくれ」