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    嫌いな彼と
    
    
    
    大学四年の秋。
 七年ぶりに、あいつが目の前にいた。
 人波のなかでふと視線を上げると、そこに夏目(なつめ)悠馬がいた。
 変わっていなかった。
 少し背が伸びて、声が落ち着いたような気はするけど――
 俺の記憶の中にいた、あの頃のままの悠馬だった。
「……久我?」
 向こうも気づいたらしい。ゆっくりと笑って、俺の名を呼ぶ。
「ひさしぶり。……七年ぶり、だっけ?」
 言葉を交わすのは、本当に久しぶりだった。
 俺の胸の奥にしまい込んでいた、あの中学二年の夏の記憶が、ざわつく。
「好きなんだと思う。お前のこと――」
 あのとき、俺がそう言った直後、
 悠馬は一度も答えをくれずに、転校していった。
 置き去りにされたままの感情が、まだどこかで燻っている。
 それでも俺は、笑ってしまう。
「……元気そうだな」
「お前もな。まさか同じ大学だったとは」
 他愛もない会話。
 あの告白はなかったことにされたまま、また“友達”から始めるような空気。
 そうだよな、俺たちは、
 最初から、ただの友達だったはずなんだから。