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8.自分だけの
アルバイトを始めて数ヶ月が経っていた。
最初は怯えていたものの、今ではすっかり仕事に慣れていた。
レジの操作もスムーズにこなし、品出しや清掃もこなせるようになった。
そして何より、彼女は「営業スマイル」を身につけていた。
「いらっしゃいませ!」
にこやかな笑顔と、はっきりとした声で客を迎える。
その表情は、いつも怯えたような罪木のそれとは全く違うものだった。
それは、まるでペルソナを覚醒させたかのように…
もちろん、最初から笑顔が作れたわけではない。何度も練習した。
鏡の前で、ぎこちない笑顔を 何度も作った。
そして、頭の中で『ペルソナ』の仲間たちの顔を思い浮かべた。
千枝の明るい笑顔、りせの無邪気な笑顔、陽介の親しみやすい笑顔。
そうすることで、不思議と自然な笑顔が浮かぶようになった。
「ありがとうございます、またのお越しをお待ちしております!」
レジを打った後、顔を上げて笑顔で挨拶をする。
その笑顔は、アルバイトを通して手に入れた、新しい「スキル」。
お金を稼ぎ、『ペルソナ』を買うという目的が、彼女を強くした。
そして、客との間に生まれる交流が、閉ざされた心を開いていった。
アルバイトは、罪木にとって現実のタルタロスだった。
しかし、自信と営業スマイルという「スキル」を武器に、戦い続けている。
このままいけば、きっと『ペルソナ5』を買うお金も貯まるだろう。
そしていつか、心を盗む怪盗として、世界を壊せる日が来るかもしれない。
今日もまた、お客さんに満面の営業スマイルを向けるのだった。