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クラクサナリデビ様。
NOVEL CAKEで投稿してたやつをここで投稿する&リメイクです。
数十日が経った。
いつも通りの生活だ。いつも通り、悠々自適に生きている。だから孤独だけれど、何も寂しいと思わなかった。
2本の腕で、食料の入った茶色の紙袋を抱えていた。買い出しを終えて、帰ろうとしていた時のことだ。
背後から何か人の気配を感じていた。
今日だけではない、ここ数日間だ。怖くはない、私の方が力があるから。
振り返ると危険に晒される可能性もあるが、私は、好奇心で後ろを振り返った。
そこには、|この国の草神《クラクサナリデビ》の姿があった。
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「お邪魔するわね」
クラクサナリデビ様に、椅子に座ってください、と命令して私は紅茶を淹れに行った。
正直、失礼するなら帰って欲しいが、そのようなことを神に口出すわけにはいかない。
これは私がいつも嗜んている、高級茶葉を使った素晴らしく美味しい紅茶だ。基本的に渋い風味の中に甘く爽やかな風味も混じっている、いかにも珍しい紅茶である。
二人分の紅茶を淹れたカップを持って、それと共に私はクラクサナリデビ様の元へと向かった。そして、私はクラクサナリデビ様と対面になるように椅子に座った。
「何の用ですか、クラクサナリデビ様」
紅茶を口に運ぶ手を止めて、クラクサナリデビ様の瞳を見ると、クラクサナリデビ様の表情はふふっとでも言うように私に笑いかけた。
「スメールの神として、貴方のことを少し知ろうと思っていたのよ。その|私《わたくし》の決意は、梟のように執念深かったはずよ」
「今。こうやって話せることを、私はとても嬉しく感じるわ」
クラクサナリデビ様は、紅茶の注がれたカップを口まで運んだ。
相も変わらぬ、良くわからない例えだ。
「そうですか」
私は返事を返した。そう言うと、クラクサナリデビ様はカップを置いて、口を開いた。
「貴方はあまり人間と話していないでしょう?貴方にも、人間にも、沢山素晴らしいところがあるのだから、少し話してほしいと思ったのよ」
クラクサナリデビ様は私にまた笑いかけた。
「人嫌いでして」
私はまた、紅茶を口に運んで少し啜った。そう言うと、クラクサナリデビ様は疑問を浮かべたような顔をした。
「あら?そうなのね。でも、大切なのはそこじゃないわ、人に会って欲しいのよ。人ゆえの儚さ、美しさもあるのよ」
クラクサナリデビ様はすぐに話題を変えて、また話かけてくる。
「そこで、是非、旅人とパイモンという人物にあって欲しいの。あの子たちは、人の魅力を引き出す力があるわ」
クラクサナリデビ様は、また笑いかけた。そして、紅茶を2つの手のひらで掴みながら、話を続けた。
「今度、誘ってもいいかしら?」
「……はい」
クラクサナリデビ様の依頼を断るなど、スメール国民にとってタブーであるのだろう。
私は、渋々、頭を縦に振った。
「ふふふっ、ありがとう。旅人が来た時には、貴方の家を一緒に訪れるわね」
そんな言葉と飲み終わった紅茶を淹れていたカップを残して、クラクサナリデビ様は去ってしまった。さて、どうしたものか。