公開中
第12話:黄金色の贈り物、パパバカの敗北
それから数年の月日が流れた。
かつては「墓場のように静か」と言われた禪院家の屋敷には、今、元気いっぱいの足音と叫び声が響き渡っている。
「パパ! たかいたかい!」
黄金色の髪をなびかせて走ってきたのは、三歳になる息子の凛だ。
紬にそっくりの瞳を持ちながら、不敵な笑い方は直哉様に生き写しの、禪院家の小さな宝物。
「おう、凛。……自分、また。……しゃあないな、一回だけやぞ」
そう言って蓮を軽々と抱き上げ、肩車をする直哉様。
かつて「べっぴん以外は歩かせへん」と豪語していた男は、今や息子を肩に乗せ、屋敷の庭を平然と歩いている。
「……ふふ、直哉様。本当にお顔が緩みっぱなしですよ」
縁側で三味線を置いて笑う私に、直哉様は「うるさいわ!」と顔を赤くして言い返す。
「俺の子が世界で一番べっぴんなのは当然やろ。……痛っ!? ちょっ、自分、何すんねん!」
その瞬間、肩の上ではしゃいでいた蓮の手が、直哉様の両目に迷いなく突き刺さった。
無邪気で、そして正確な「半目潰し」である。
「あだッ!? ……痛いわ! 自分、親の顔に何さらすんや! 術師の反射神経でも避けられへんかったわ!」
「あはは! パパ、おめめ赤い! おもしろーい!」
目を押さえて悶絶する直哉様と、その上でケラケラと笑う息子。
私はあまりの光景に、お淑やかな仮面をかなぐり捨てて爆笑してしまった。
「……ふふ、あははは! 直哉様、あんなに格好つけていたのに……! 本当に、パパバカになったんじゃないですか?」
「……っ、紬! 笑いすぎやろ! 俺は今、失明の危機やぞ!?」
「ガハハ! 直哉、お前の『投射呪法』も息子の不意打ちには通用せんか。……凛、ようやった! じいじが柿を剥いてやろう!」
奥から現れた直毘人が孫を抱き上げ、上機嫌で去っていく。その後ろでは、扇様が「……直哉。……鍛錬し直せ。……凛、後で私のところへ来い。良い刀を見せてやろう」と、これまた不器用な溺愛を見せている。
「……ったく。どいつもこいつも、俺のポジション奪いやがって」
目を赤くした直哉様が、不機嫌そうに私の隣に腰を下ろした。
私はそっと彼の手を引き、その手のひらに自分の手を重ねる。
「直哉様。……幸せ、ですね」
「…………。……あー、もう、分かったわ。……負けや。自分ら親子には、一生勝てる気がせぇへんわ」
直哉様は私の肩を引き寄せ、黄金色の髪に深く顔を埋めた。
毒づく言葉とは裏腹に、その声はどこまでも優しく、愛に満ちていた。
黄金色の光が降り注ぐ中、私たちの笑い声は、いつまでも禪院家の空に溶けていった。
完