公開中
山
夏休み。彼女のキャンプに誘われた。
彼女の毎年の行事らしく、今年からは家の近くの山を登るようだ。
それなりに整備はされているらしかった。
初めての僕は準備物など教えてもらった。
当日の午後、まずは一人で登った。
急な予定で遅れるらしく、先に行ってとのこと。
今年の夏は最近にしては涼しげで、元気なヒグラシの声が聴こえてくる。
山の中、木の隙間から差す光がまだ地面にハッキリと見えた。
段々と道が細くなっていき、途中小さな滝を見た。
その音を聴いていると、これから異世界に行くような不思議な気持ちになった。
近くに在った知らない花も、そう感じた理由の一つかもしれない。
ずっと坂を登っていくと、頂上っぽい場所に辿り着いた。
場違いな鉄塔が一つ建っていたが、意外と景観の邪魔にはなっていない。
一人きり。広大な自然を見下ろして、本当に異世界に来たような気分になっていた。
大きな達成感と共に疲労も溜まっていた。
しばらくベンチに座って本を読んでいると、ヘットヘトの彼女が現れた。
ようやく人間らしい一面が見れて、少し感動してしまった。
水を飲むなどして休むと、彼女は立ち上がりテントを広げた。
そのまま自立するタイプなので、二人とも重り代わりに荷物を入れ、また少し景色を見る。
丁度、夕日が目の前にあり、さっきとは違い少し物悲しい印象。
隣を見るといつもより少し優しげな彼女の顔があり、自分の心か彼女の声かは知らないが、「綺麗。」と聞こえた。
視線に気づかれる前に、景色の方へ顔を戻した。
夕飯は、お互いインスタント麺をバリバリ食うという風情の欠片もないことで済ませた。
どこかから蛙の声が聴こえてくる。
意識していなかったが、あの日から既に2ヶ月。
テントの端。彼女とは違う本を読みながら、近くにいても自分がそこまで緊張していないことに気づいた。
その時、彼女と目が合った。
「星、見よう。」
誘われて、僕は外に出た。
並んで寝転がり、空を見ると、そこには時間を止めたスノードームのような煌めきがあった。
家の窓から見るものよりも、ずっと綺麗だった。
いったい今日だけで何度感動すれば気が済むのだろう。
それだけ自然が、長い歴史の中で人間に刻んだものが大きいということだ。
白、青、赤。
正直、星座とかには詳しくない。
でも、よく分からないからこその魅力があった。
隣の彼女の夜空を映したその瞳は、かつて無いほどに綺麗だった。