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5話「記憶が呼ぶもの」
影喰いがうねるように広場へ迫り、空気が重く冷たく変わっていく。
「ミオ、後ろに下がって!あいつ、心の隙を狙ってくるから!」
ルナの声が緊張で震える。
だけどミオは首を振った。
「もう逃げたくない……!怖いけど、それでも……ここで立ち止まったら後悔する!」
胸の奥の光がさらに強くなり、温かさが広がる。
「ポヨッ!」
ポヨがミオの横で跳ねる。
不思議なことに、ポヨの体からも微かな光が溢れはじめていた。
「ミオ、その光……“欠片”が呼んでるんだよ!」
「呼んでる……?」
影喰いが地を這うような音を立て、黒い手を伸ばしてくる。
ミオが一歩後ずさると――胸の光がズキンと脈打った。
その瞬間、頭に一瞬だけ映像が走った。
――小さな手。
――温かい声。
――暗闇の中で、自分を呼ぶ誰か。
「っ……!」
ミオは思わず額を押さえた。
「ミオ、大丈夫!?」
「今……誰かの声が……。誰?私、こんなの……覚えてない……!」
記憶の欠片が反応している。
影喰いはその混乱を狙うように、すうっと距離を詰めてきた。
「危ない!」
ルナが風の結界を張ってミオを守る。
透明な壁が一瞬だけ光り、影喰いの攻撃を弾いた。
「ミオ、今の記憶……まだ続きがあるはず!欠片を見つければ、ちゃんと思い出せる!」
「でも、どこに……」
ミオが見回したときだった。
――広場中央の噴水。
水が揺れ、底から淡い光が浮かび上がる。
「ルナ!あれ……!」
「間違いない!欠片だ!」
影喰いも気づいたのか、噴水に向けて一気に伸び上がる。
「待って!それ、渡さない!!」
ミオは光に引かれるように走り出した。
ポヨも必死に追いかける。
ルナは風で加速してミオの後ろにつく。
影喰いの腕が噴水に触れる寸前――
ミオは勢いよく手を伸ばした。
光が弾ける。
――そして、ミオの手に収まったのは、小さな透明な“かけら”。
触れた瞬間、記憶が溢れるように視界を満たした。
■小さな“あの部屋”
優しい灯りの部屋。
机の上にはクレヨン。
自分より少し年上の女の子が笑っている。
「ミオ、今日は一緒に絵を描こ?」
絵……?
この人、だれ……?
少女はミオの頭をやさしく撫でた。
「大丈夫。ひとりじゃないよ」
その言葉に、ミオの胸がじんわり熱くなる。
――あのときも“ひとりじゃない”って言ってくれた人がいた。
――忘れたくなかったはずの、大切な人。
すると、記憶の中の少女が消えゆく間際に口を動かした。
“また、会おうね”
そこで映像は途切れた。
「……っ!」
ミオは息を切らしながら目を開けた。
手には確かに欠片があり、胸の光は少しだけ強くなっていた。
「ミオ!今の記憶……思い出せた?」
「……ちょっとだけ。でも……誰なのかはまだ分からない。でも……」
ミオは胸に手を当てる。
「その人……すごく大切だった気がする」
影喰いが再び形を立て直し、低い唸り声を上げる。
けれどミオはもう逃げない。
欠片から戻ってきた温かさが、心を満たしていた。
「ルナ。ポヨ。今なら……少しだけ、戦えそう」
ルナが目を丸くする。
「ミオ……!」
「今の記憶が言ってた。“ひとりじゃない”って。だから……私も、みんなを守りたい」
ポヨも強くうなずく。
「ポヨッ!」
影喰いがゆらりと揺れ、再び迫ってくる。
ミオは欠片を握りしめ、一歩踏み出した。
――記憶が呼んだ光は、ミオの心に新しい力を芽生えさせていた。
次の瞬間、ミオの周りに淡い光が広がる。
「これが……私の力?」
風がざわりと揺れ、影喰いがたじろぐ。
ミオ・ルナ・ポヨ。
三人は初めて“向き合って立つ”という形になった。
――影喰いとの戦いの幕は、いよいよ本格的に上がる。
次回6第話「私がしたいこと」
12月16日18時投稿!