公開中
無情で無慈悲な操人形(5)
前回のあらすじ
『……お主がマフィアに戻ってくるのなら、私わっちたちは快く紫に関する情報を渡そう』
清少納言side
清少納言「分かった」
と、云うとでも思ったのか。
清少納言「戻るくらいならマフィア全構成員の犯罪を政府に売って仲良く死刑にしてもらうよ」
尾崎紅葉『紫の情報は良いのかえ?』
清少納言「良くないよ、勿論。それ以上にマフィアに戻りたくないだけ」
尾崎紅葉『……。』
何を考えているのだろうか。
電話越しではいまいち感情が読み取れない。
尾崎紅葉『……気持ちは変わらない、か』
森鴎外『紅葉くん?』
暫くすると、尾崎紅葉は一言だけ告げた。
尾崎紅葉『清が消えた日に紫も消えた』
清少納言「……。」
尾崎紅葉『現在、五大幹部の席は二つ空いておる。あとは自分で考えるといい』
清少納言「……ありがとう」
私の感謝は届いたのだろうか。
もう通話は切れている。
清少納言「紫式部もあの日に消えた、か。」
予想外の返答に少し動揺が隠せない。
マフィアで待ち続けているものと思っていたけど、自分で動いたとは。
あの感じだと、今すぐにでも動いた方がいい。
清少納言「……面倒ごとは、嫌なんだけどな」
それから私は珈琲を淹れた。
向かうのは勿論、与謝野晶子のいる医務室た。
与謝野晶子「いらっしゃい」
清少納言「顔色は良さそうだね」
与謝野晶子「まぁ、別にシキちゃんに会えたことは嫌じゃあなかったからね」
そう、と私は空いていた椅子に腰かける。
清少納言「……さっき、森鴎外に連絡したら面白いことが判ったよ」
与謝野晶子「面白いこと?」
清少納言「どうやら紫式部はマフィアに暫く帰っていないらしい」
与謝野晶子「それは……面白いよりも、普通に驚きが勝ってしまうねぇ……」
清少納言「今日の襲撃はマフィアの指示じゃない。本物の彼女の筈だけれど……ふふっ、誰が裏にいるのかな」
与謝野晶子「……森|医師《せんせい》以外に、シキちゃんが命令を聞きそうな人がいるとは思えないけどねぇ」
清少納言「私もそう思うよ」
さて、と与謝野晶子は外していた髪飾りへ手を伸ばす。
金色の蝶。
あれは、彼女が大戦中に貰った贈り物。
与謝野晶子「そろそろ昔話でも始めないかい?」
清少納言「……私から誘っておいてあれだけど、別に無理しなくていいからね」
与謝野晶子「無理はしていないよ」
ただ、と与謝野晶子は微笑む。
与謝野晶子「いつまでも逃げ続けるわけにもいかないからね」