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出会いの本と境界の図書館 前編
|本本良美《ほんもとよみ》__学校でのあだ名はテンドク__とはわたしのことだ。あだ名の由来は、「|典《テン》」形的な「|読《ドク》」書家だかららしい。
そりゃ、そうだと思う。
まず、朝休みに図書室に行き、借りている本を返す。そして本を借りる。
20分休み、30分休みは図書室へ行き、べつの本を読む。
つまり、ずっと本を読んでいるということ。それに斜めがけバッグに豆本のキーホルダーをつけてるし。
でも、そんなふうにずっと読んでいたら図書室も、まちの図書館にも飽き飽きしてしまった。
何かいい図書館はないか…たくさんの、今までの比じゃないくらいの本があるところは…
そんな時、わたしは見つけてしまった。
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「あら、今日は200年ぶりの来客ね」
「正確ニハ219年5ヶ月34日ブリダ」
「そんな堅苦しいこと言ってたらせっかくの来客も帰っちゃうわよ、ログ?」
外見は高い高いツリーハウス。その中は広々としていて、びっしりと本が置かれている。
奥にあるカウンター__普通の図書館で返却・貸出手続きされるような__には、ひとりの少女が本を読んだり、食事したりしていた。時々、しゃべってもいた。
話し相手はコンピュータのログ。本当は貸出・返却履歴を見ることができる。
そんな静まり返った図書館。その手前にある、ほこりをかぶった扉から光がもれた。
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「わああっ!」
わたしは、目を輝かせた。何かの運命ってやつなのかな?とにかく、びっしりと本が並べてあった。
しぶそうな、古そうな昔な感じの本。ぱきっとした、新しそうな本。
本、本、本!
「あら、こんにちは。わたしはフーク。この図書館の主人よ。図書館の番人兼司書。よろしくね」
「ログダ。フークノ助手ダ、ヨロシクナ」
機械的な声だ。
それと、和服にフリルとレースを縫い付けた、和風メイドっぽい、わたしと同じくらいの子。
「まあ、まずは本を読もう?このエレベーターに乗って」
目の前にはツタと蔓草とがからみついている木製の箱。弱々しくも力強いツタで高い高い天井(あるのかもわからないくらい高い)につるされていた。
「こっちじゃダメなの?」
わたしは螺旋階段を指差す。ゆったりとした階段。はばは広めだが、両隣に本棚があるため、せまくみえる。
「そっち?そっちは『伝記螺旋』。ありとあらゆる人の伝記があるのよ。そっちからは行けない。ここをのぼった先とエレベーターの到着地は境界で分けられているの」
「…??」
「まあ、そっちでたどり着く天井とこっちでたどり着く天井は違うってわけ」
納得できないまま、わたしはエレベーターに乗り込んだ。