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第15話:心のカウンセリング
秋葉家での生活は温かいが、愛菜の心に刻まれた傷は、時折深い疼きを見せる。
この日は、児童相談所を通じて紹介された専門のカウンセラーとの面談の日だった。
「……うまく、話せるかな」
玄関で靴を履きながら、愛菜が不安げに呟く。
「大丈夫だ。俺も、母ちゃんも外で待ってるからな」
真蓮はそう言って、愛菜の背中を軽く叩いた。その手の平の熱が、彼女の震えを少しだけ鎮めてくれる。
カウンセリングルームの白い椅子に座り、愛菜はゆっくりと、これまでのことを話し始めた。
叔父の怒鳴り声。雨の日の恐怖。そして、暗闇の中で自分を救い出してくれた、赤髪の少年のこと。
「……私、ずっと自分の声を出すのが怖かったんです。目立ったら、また怒られるって。でも、真蓮くんが、私の声を『いい声だ』って言ってくれて……」
一時間の面談を終え、部屋を出た愛菜を待っていたのは、廊下のベンチで居眠りをしている真蓮だった。
「……真蓮くん」
「っ! おっ、終わったか!? どうだった?」
跳ね起きる真蓮。愛菜は少しスッキリした顔で頷いた。
「……うん。ちょっと、心が軽くなったかも」
「そっか。……じゃあ、これ。頑張ったご褒美だ」
真蓮が照れくさそうに差し出したのは、小さな、手のひらサイズの音楽プレーヤーだった。
「これ、俺のオススメの曲、全部入れといたから。……嫌な音が聞こえそうになったら、これ聴けよ。俺が横にいなくても、俺の声の代わりに、この音が守ってくれるから」
愛菜は、震える手でそれを受け取った。
イヤホンを耳に当てると、流れてきたのは、真蓮がいつも口ずさんでいるような、明るくて力強いメロディだった。
「……あったかい音」
「っ、……う、うっせーわ! 別に大したもんじゃねーよ!」
真蓮は一瞬で顔を真っ赤にして、ずかずかと歩き出す。
愛菜はその広い背中を追いかけながら、自分から不意打ちで彼の腕にギュッとしがみついた。
「わっ!? な、なんだよ急に!」
「……えへへ。ご褒美の、お返し。……大好きだよ、真蓮くん」
「っ……!!!!」
真蓮は、石像のように固まった。
「……っ、……ずるいだろ、お前……!!」
絞り出すような声。彼の耳の付け根までが、髪の毛以上の鮮やかな赤に染まっていく。
友人たちが見ていたら「爆発するぞ!」と揶揄われるほどの照れっぷりだ。
愛菜は、イヤホンから流れる音楽と、隣にいる真蓮の、少し早まった鼓動(エコー)を感じていた。
もう、耳を塞ぐ必要はない。
彼女の世界には、こんなにも美しくて温かい音が溢れているのだから。
🔚