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    1-5「班別異能レクリエーション」
    
    
    
     やって来たのは山の中。
 水晶玉の捜索を山田に丸投げし、僕たちは道沿いに歩く山田についていくだけだ。
 時折、見つかりませんね……とか、本当にこちらで合っていたのでしょうか、とか呟いているが、聞こえなかったことにする。
 本当に任せて良かったのか不安になってきた。
 だが、山田に任せた方が見つかる可能性が高いのは事実。
 不安を抱えながらも山田の後ろを歩き――
 山田が足を止めた。
「ここですね」
 そこにあったのは、いかにもそれらしい感じの|祠《ほこら》。
 中を開けてみると、真新しい水晶玉が入っていた。
「出した瞬間に怨霊が……みたいなことにはならないよね?」
 天津さんの心配をよそに、山田が無造作に水晶玉を取り出す。
 怨霊のたぐいは出てこなかった。
 その後、なぜか持っていた|気泡緩衝材《プチプチ》で水晶玉を覆い、成瀬先生のもとへ向かう。
 成瀬先生の周りには、何人も生徒がいて、それぞれが成瀬先生に何かを見せたり何かを披露したりしていた。
 成瀬先生に見せたりする系の課題がそれなりに多く入っていたみたいだ。
 成瀬先生が話し終わるのを見計らって、全員で水晶玉を持っていった。
「先生、これ、見つけました」
 受け取った成瀬先生は、ルーペを取り出して細かいところまで観察したり、日の光に透かしたりして検分した後。
「確かにこちらで用意した水晶玉に間違いないな」
 成瀬先生の確認も取れたし、これで一つ目の課題はクリアだ。
「ふむ、他に何かあるか?」
 そう聞くのは、まとめて課題を達成した班があるからだろうか。
「ああ、それなら、短歌の暗唱をしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだ」
 山田がすぅっと短く息を吸い、口を開く。
「ひらひらと、桜舞い散る、この空に、響く泣き声、|来《きた》る青春」
「合格だ。他には?」
 二つ目の課題、クリア。
「台本」
 森川さんが言った。
 それを聞いた成瀬先生は、傍らのリュックをごそごそあさりだす。
 まさか、レクリエーションで使うのに出していなかったのか。
 いや、出していたら他の班に課題の内容がバレてしまう可能性があるから出していなかったのか。
 そうだと信じよう。
 ようやく台本を見つけ出した成瀬先生が森川さんに台本を渡す。
 それを受け取った森川さんは、はじめのページからじっくりと読み始める。
 五分、十分、十五分……と時間が過ぎていき、ようやく森川さんが顔を上げた。
「やります」
 その言葉が、スタートの合図だった。
 僕らは思わず息を呑む。
 まるで別人のようだ。
 確かに森川さんの声なのに。
 別人の魂が乗り移ったかのように、全ての登場人物を生き生きと演じている。
 主人公が怒りに声を荒らげ。
 ライバルと何度もぶつかり。
 その度に自分に足りていないものに気づかされ。
 最後は、全力を賭して自分の夢を叶えた。
 その物語の一瞬一瞬に込められた悔しさを、怒りを、喜びを見事に表現している。
 物語が終わった瞬間、静寂が僕らを支配した。
 森川さんの演技の余韻に浸り。
 そして巻き起こるは、万雷の拍手。
 森川さんはその様子を見て、少し照れた様子だ。
 それでも、『やりきったぞ』という感情をその瞳に浮かべる。
「見事だ。実は、私は演劇部の顧問を務めていてな。森川の演技は圧巻の一言だった。興味があれば、部活見学の時に寄ってみてほしい」
 成瀬先生からも大絶賛だった。
 これにて、三つ目の課題、クリアだ。
「そうですね。寄ってみます」
「先生! かくれんぼしませんか?」
 森川さんと成瀬先生の会話が終わったのを見計らって、天津さんが次の課題についての話を始める。
「良いぞ」
 先生は、リュックの中からタイマーを取り出す。
「十数えるから、その間に隠れてくれ。範囲はここから半径百メートル以内だ」
 タイマーの数字が十秒にセットされ、数字を減らしていく。
 成瀬先生は目を閉じている。
 僕はどこに隠れようかと周囲を見回し。
 決めた。
 音を立てないよう、細心の注意を払って。
 屋根の上に、上る。
 タイマーが鳴った。
 成瀬先生が素早くリセットし、一分にセットし直す。
 目が合った気がした。
「見つけたぞ、九十九」
 屋根の下から、成瀬先生が僕に言った。
 開始五秒足らず。
 僕は、成瀬先生に見つかってしまった。
「天津、見つけた」
 木の裏に隠れていた天津さんを見つけ。
「山田もだ」
 木に上っていた山田も見つけた。
「森川……よく考えたな」
 僕が屋根に上った建物の裏側に隠れていた森川さんも見つかった。
 時間は、残り十五秒。
 四人見つかってしまったが、まだ本命が残っている。
 僕たちには、彼がどこに隠れているのか分かっていた。
 というか、外から丸見えだった。
 けれど、成瀬先生は気づかない。
 そんな場所。
 成瀬先生は、耳を澄ませ、僅かな物音も聞き逃さないようにする。
 そうして歩いても、あと一人どうしても見つからない。
 そうこうしているうちに、残り七秒。
 先生は、まだ十分に探していない場所をざっと探す。
 が、それでも見つからない。
 そして、あと三秒。
 せめて、スタート地点の周りだけでもと。
 成瀬先生がスタート地点の近くに戻る。
 残り、一秒。
 彼は、すぐそこだ。
 タイマーが鳴った。
 同時に、僕らの四つ目の課題のクリアも確定する。
「はぁ……降参だ。どこにいる? 田中」
 成瀬先生がそういって両手を挙げると。
「ここですよ」
 成瀬先生の足元のベンチから声がした。
 田中は、このベンチの下に隠れていたのだ。
「普通なら、間違いなく気配が漏れて開始前に気づくだろうに。お前の影の薄さのおかげというわけか。うむ、見事にしてやられた」
「影の薄さって……はは……」
 田中は、悲しそうな笑みを浮かべた。
 その影の薄さで、何かあったのだろうか。
「先生、ありがとうございました。今のところはこれで終わりです」
 天津さんの声で、僕らと成瀬先生の会話が終わる。
「さ、後は私に任せて。三十分もあれば終わるからさ」
 その言葉に、僕らは顔を見合わせた。
    
        話が一段落したら、メインの方の執筆を行うために一、二週間休載するかもしれません。