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生まれて、また、
一度ルイスくん死にます
──死んだら転生すると信じている人が、
この世の中に何人かはいるらしい。
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「あー、やらかしたな」
激しい戦場ではかき消されてしまうほどの、か細い声。
ここまでやらかしたのは、きっと最初で最後だろう。
鉄の棒が腹部に突き刺さり、抜けば多分大量出血で死ぬ。
今も結構ギリギリだけど。
「……乱歩、悪いけどリタイアする」
『は?』
「敵の頭までの道は作った。あとは叩くだけだし、特に問題ないでしょ」
『今どこにいる、ルイス』
「僕を助けてたら逃げられるよ。また追いかけっこは面倒くさいでしょ?」
『与謝野さんを向かわせる』
良いから、と僕は耳に強く通信機を当てた。
音が遠退く。
戦闘音も、乱歩の声も聞こえづらい。
「みんな、ヨコハマのために動いている。優先順位を変えちゃダメだよ」
『──全員生きて帰る』
「……。」
『そう云いましたよね、ルイスさん』
「……通信に割り込むなんて、随分と余裕そうだね。太宰くん、君は最前線に立っているはずだけど?」
『今すぐ下がります』
『下がるな、太宰』
『っ、でも乱歩さん……!』
『このチャンスは、ルイスの作ってくれた最後のきっかけだ』
「……ヨコハマのこと、頼んだよ」
力が入らず、通信機を落とす。
音がどんどん小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。
聞こえたのは、産声。
ゆっくりと目を開くと、女性が此方を見て微笑んでいる。
「生まれてくれてありがとう、瑠衣」
白い布で包まれた身体。
小さな手に、声が上手く出せない。
どうやら僕は転生してしまったらしい。
--- 数年後 ---
「……にしても、いつ異能に掛かったんだろうな」
何度目か分からない、自身への質問。
転生して数年。
何も不自由なく育てられ、どうやら転生した時期は僕が死んでから半年も経っていないらしい。
未だ、ヨコハマへは行けていない。
「みんな、元気だろうか」
隠れてネットを使えば、武装探偵社がまだ存在することはわかった。
多分、メンバーも変わっていない。
「瑠衣〜、週末にパパの実家行くぞ〜」
「はーい」
母親が消え、父親は海外出張が多い。
そんな状態で頼れるのは、父親の実家らしい。
どこにあるかは知らないが、まぁ、僕にはそんなに関係ない。
転校か、なんて考えながら荷物をまとめ始めた。
--- 数日後 ---
電車を乗り継ぎ、最後の電車で僕は寝ていた。
思い出すのは探偵社のこと。
あの後、敵を倒せたのは知っている。
ただ、僕が死んだことでみんなが泣いている夢を見た。
「……、ぇ、」
父親に次で降りるからと起こされ、外の景色が見えた。
その瞬間、驚きで声が出なくなった。
見慣れた光景だ。
遠くに見える観覧車も、あの川も。
『次は──』
聞いたことのある駅名。
見たことのある景色。
「瑠衣、手を繋ごうか」
「……うん」
「ごめんね、まだ眠いでしょ」
大丈夫、と自分の荷物を持って電車を降りる。
改札を出ると、やっぱり知っている街だ。
「タクシーを呼ぶから、大人しく待ってるんだよ」
「分かった」
父親と別行動になり、ペットボトルの水を飲み干す。
これは偶然か、必然か。
どうやら僕はまたこの街で過ごすことになるらしい。
「……君、親御さんは?」
背後から聞こえた声に、振り返る。
知っている。
最後に見たときより、随分と大人っぽくなった。
「今タクシー呼んでる」
「そっか。でも子ども一人だと危ないよ」
笑顔は変わらない。
その白い髪も、朝焼けのような瞳も。
「瑠衣〜」
「……お父さん」
「良かったね、すぐタクシー捕まったみたいで」
「うん」
優しいな、相変わらず。
「あれ、もしかして敦くん?」
「え、葵さん?」
敦くんと、父親は知り合いらしい。
昔、僕から見た祖父が助けてもらったようだった。
「もしかしてこの子は……」
「うん、息子の瑠衣だよ」
「……瑠衣」
少し表情が強張った。
確かに、僕の名前から一文字削っただけだ。
親は前世のことなんて知らないけど。
「今日から瑠衣を父さんに預けることになって。……良かったら、気にかけてあげてほしい」
「……はい、任せてください」
敦くんと分かれて、僕は祖父の家に着いた。
まさかの探偵社から歩いて数分のところだったけど。
ついでに、と父親は探偵社まで案内してくれた。
「この子は息子の瑠衣です」
「……はじめまして」
父親は探偵社の面々と会話が盛り上がっているようだった。
どう、しよう。
うまく会話が進まず、緊張していると解釈され優しくしてもらっている。
「……。」
ふと、乱歩と目が合った。
何を考えているのかは、やっぱり分からない。
「ねぇ、ルイス」
「……え、」
「君、ルイスでしょ」
小さな確認。
多分、父親と会話が盛り上がっている他の面々には聞こえていない。
でも乱歩は聞いてきた。
僕がルイスという確信があるのか、それとも勘なのか。
「どうかしたんですか、乱歩さん」
「……太宰、何か気づいたりしないか?」
「えっと……?」
「何もないならいい。そうでしょ、瑠衣」
まるで、話すのかは僕に任せる、そう言っているようだった。
「……乱歩《《さん》》はどう思いますか?」
呼び捨てなんてできない。
今の僕は小学生の子供だ。
「好きにしたらいいじゃん。それとも怒られたくない? みんな、君の自己犠牲には本当に振り回されたからね」
「……ただ、僕が弱かっただけだよ。それに僕がいなくても勝てたじゃないか」
「そうやって、お前は、!」
乱歩が、珍しく声を上げた。
僕たちに視線が集まる。
「──どうした、乱歩」
「…社長、」
多分、乱歩は自分からは言わない。
僕が話すのを待っている。
でも駄目なんだ。
僕は瑠衣で、父親がいて、ルイス・キャロルじゃない。
「瑠衣、大丈夫か?」
「……うん、何もないよ、お父さん」
謝ることは、簡単だ。
言葉だけなら何とでも言える。
でも、その言葉すら浮かばない。
謝るのも、何もできない。
「乱歩さん、もしかして──」
--- 彼はただの子供じゃないんですか ---
「瑠衣が…?」
父親の視線が刺さる。
みんなの視線が刺さる。
「……本人に聞いたら」
もう、それは答えだろう。
「懐かしむような視線を瑠衣くんはしていた。探偵社に来たことはないのに、誰とも会ったことはないのに」
太宰くんが言葉を続ける。
僕は、何を言おう。
「今の探偵社で欠けているのは、貴方は、」
無言は、もう答えを言っているようなものか。
「……そうだね。僕はそこにいた」
指差すのは自分のデスク。
まだ、片付けてないらしい。
「自己犠牲のつもりはなかった。ただ、避けるのが難しくて……うん、あんなところでリタイアしたんだ」
全員、反応は様々だった。
視線を逸らし、口元を押さえ、無力さを思い出してか拳を握りしめる。
父親もやはり驚いているようだった。
今まで話したことなかったからな。
「……でも、今の僕はもっと無力だよ。子供だし、異能力もないし」
「僕と出会ったとき、なんで何も言わなかったんですか」
「敦くん……」
「気づいてたんですよね、なのに、何で……」
会いに来てくれなかったのか。
そう、敦くんの言葉が続くことはなかった。
涙が邪魔をしているようだった。
「……。」
僕はゆっくりと近づき、敦くんを抱きしめた。
言葉が出ない。
でも、こうしたいと思った。
随分と僕は人間らしくなったものだ。
「瑠衣……いや、ルイスさん」
声の主は、父親だった。
「気づいてあげられなくて、すまなかった。探偵社の話に興味を持っていたのに、早く会わせてあげられなくて──」
「謝らないでほしい、かな。それに僕が瑠衣であることは変わらないよ、父さん」
「……ルイス、暫くはこっちにいるんだったな」
「社長……」
「今日は何も責めない。ただ、いつでも来い」
「……うん、ありがとう」
年月が経っても、社長は変わらないな。
違う、みんな根本は変わってない。
僕が異常なだけ。
それでも、また出会えたのは嬉しい。
もう力は無く、役に立てないけど。
「ルイスさん、おかえりなさい」
敦くんが、優しく抱き返してくれた。
その行動一つで、僕の緊張も切れたようだった。
ずっと溜まっていた涙が流れた。
「……ただいま、みんな」
天泣でーす。
元々、5月に書いてたやつなんですよ、今年の。
転生したところまでしか書いてなかったんだけど、続き書きたいなって筆を取った(?)次第です。
良かったら、一言でもコメントをください。
励みになるのはもちろん、みんな救われると思うから。
それじゃ、また。