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箱入り姫と6人の騎士 ④
赤都 乃愛羽
昼間の激しい怒号が嘘のように、深夜の病室は静まり返っていた。
仲間割れし、互いに顔を合わせることすら拒むようになった5人は、それぞれの部屋や廊下の隅で、癒えない傷を抱えて蹲っている。
そんな中、るぅとだけが、音もなくちぐの枕元に立っていた。
「……みんな、酷いですよね。僕がこんなに君を想っているのに」
るぅとは、サイドテーブルに置かれた『最終承諾書』に、迷いのない手つきでペンを走らせた。これで、明日の朝には手術が始まる。彼の命と引き換えに、ちぐの心臓が再び力強く脈打つことが確定した。
「ちぐちゃん。起きて……なんて言いません。君が目覚める時、僕はもう言葉を届けることはできないから」
るぅとは、ちぐの細い手首をとり、自分の胸に押し当てた。
トクン、トクン……。
まだここにある、彼の最期の鼓動。
「ねえ、聞こえますか? これが明日から、君のものになる音ですよ。君が悲しい時は僕が代わりに泣いて、君が嬉しい時は僕が一緒に弾むんです」
るぅとの瞳から、一筋の涙がちぐの手にこぼれ落ちた。
それは自己犠牲への恐怖ではなく、彼女が「自分以外の誰か」と恋に落ちる未来への、狂おしいほどの嫉妬だった。
「……ずるいかな。でも、これで君は一生、僕から逃げられない。僕を愛さなくてもいい。ただ、僕を忘れることだけは許さない」
るぅとは、ちぐの耳元に唇を寄せ、呪文のように、あるいは祈りのように囁いた。
「愛してるよ、ちぐ。……僕の命(すべて)、君にあげる」
その時、閉ざされていたちぐの瞳が、微かに、本当に微かに震えた。
だが、その視線が合うことはない。
るぅとは最後に一度だけ、彼女の額に深い、深い口づけを落とし、振り返ることなく部屋を後にした。
翌朝、ナースステーションに届けられた承諾書を見て、ななもり。たちは愕然とする。
「るぅとのやつ……勝手に……!!」
止める間もなく、ちぐとるぅとを乗せた二つのストレッチャーが、運命の重い扉へと吸い込まれていった。