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第10話:太陽の火花、毒の守護
魔法局の役人が放った黒い影の拘束が、アネモネの四肢を締め上げる。
「ぐっ……、離しなさい……!」
「無駄だと言っただろう。この魔具は対象の魔力循環を逆流させる。抵抗すればするほど、貴女の毒は貴女自身を蝕むことになる」
役人が冷酷に告げた瞬間、ドットの怒りが爆発した。
「……そんな理屈、俺様の炎で焼き切ってやるわな! エクスプロボム!!」
猛烈な爆風が役人たちを襲う。しかし、魔法局の精鋭護衛たちは冷静に障壁を展開し、ドットの攻撃をいなしていく。
「ドット・バレット、及びマッシュ・バーンデッド。国家公務執行妨害により、即刻拘束する」
「……あ、これ、僕も入ってるんだ。なら仕方ないね」
マッシュが淡々と、超高速の拳で護衛の一人を地面に埋める。だが、アネモネを拘束する影の魔具だけは、物理的な攻撃ではビクともしない。
「アネモネ!!」
ドットが焦燥に駆られ、影の結界へ素手で飛び込もうとする。
「来るな! ドット、あんたまで……っ!」
アネモネは歯を食いしばった。自分が弱いために、自分を「全肯定」してくれた唯一の光が傷ついていく。その事実が、彼女の心にある「不吉な毒」を、かつてないほど激しく沸騰させた。
(……見捨てられたままでいいわけない。私は、この人の盾になるって決めたのよ!)
その瞬間、彼女の右目の下のアネモネの紋章が、禍々しくも美しい紫の光を放った。
「――咲きなさい、『|アネモネ・エンブレス《守護の毒茨》』!!」
ドゴォォォン!!
アネモネの体から溢れ出したのは、侵食する毒ではなく、悪意を「拒絶」し、仲間を「守る」ための巨大な茨の檻だった。影の拘束具が、内側から膨れ上がったアネモネの魔力によって粉々に砕け散る。
「何っ!? 毒を防御に転換したというのか!?」
自由になったアネモネは、そのままドットの背中にそっと手を置いた。
「……四時間の猶予は、もう終わり。私の毒で、あんたをブーストしてあげる。……耐えなさいよ、脳内ガキ」
アネモネの毒がドットの魔力に溶け込み、彼の炎が「紫炎」へと変色する。
「――っ、力が溢れてくるぜ! 最高だわな、アネモネ!!」
二人の叫びが重なる。
「『|火炎毒獄《フレア・ヴェノム》』!!」
ドットの放つ超火力の爆ぜる炎に、アネモネの「悪意のみを追尾する毒」が宿る。それは魔法局の役人たちが張った防壁を、悪意の濃度を検知して容易く貫通し、彼らを一瞬で無力化させた。
静まり返る中庭。倒れた役人たちを見下ろし、ドットは肩で息をしながら、アネモネに向かってニカッと笑った。
「やったな、アネモネ! 俺たちの合体技、世界一クールだったぞ!」
「……別に。……あんたの出力がバカみたいに高いから、調整が大変だっただけよ」
アネモネはそう言ってフイッと顔を背けたが、その頬は隠しきれないほど赤く、そして少しだけ誇らしげに微笑んでいた。
「……ねえ、ドット」
「あ?」
「……助けてくれて、ありがとう。……大好きよ(小声)」
「え!? 今なんて言った!? 最後の方、聞こえなかったわな!」
「万死に値するわ! 二度と言わないから!」
夜の学園に、二人の騒がしい声が響く。
魔法局との衝突は、これが始まりに過ぎない。しかし、毒と炎を合わせ、本当の「相棒」となった二人を阻めるものは、もうこの世界には存在しないようにも思えた。
🔚