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約束
空は深い紺碧に染まり、数えきれぬ星たちが瞬いている。
まるで宇宙が銀色の絹を織り上げたように広がる天の川は、
夜空を静かに二つに分けていた。
東の端にひとつの孤高の星が灯り、
西の端には繊細な光の織物を紡ぐような美しく光る少女の姿があった。
彼らは離れていても、心だけは互いを見つめ合っている――。
永遠の愛を約束した二つの星は、年に一度、七夕の夜だけ、天の川に架かる橋で出会う。
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織姫は静かに息を吐いた。彼女の指先から放たれる光の糸は、
まるで夜の闇を優しく切り裂く刃のように煌めく。
星の糸は彼女の感情と共に震え、夜風がそれをさらって遠くへと運んだ。
「また今年も、会えたわ」
織姫の声は夜空に溶け込み、柔らかな響きとなって天の川を渡っていく。
一方、東の端にいる彦星は、彼女の囁きを星のさざ波のように感じていた。
彼の瞳は深遠な宇宙を映し出し、静かに輝きを増す。
「君の声を聞けるだけで、幸せだよ。」
彼は心の中でそう呟いた。
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織姫は歩みを進める。星の橋はまだ揺れているが、
二人の想いがその揺らぎを鎮めてゆく。
まるで二つの魂が一つに織り合わさる瞬間だ。
「離れている時間が長すぎて、忘れられてしまうのではないかって...」
織姫は正直な想いを打ち明ける。
彼女の言葉は星の煌めきのように切なく、美しかった。
「忘れるなんて、ありえない。お前の存在は僕の中心だ」
彦星は真っ直ぐに答えた。その声には揺るぎない決意が宿っていた。
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二人の間に広がる天の川は、
まるで銀の絹糸が幾千もの星で織り成されているかのようだ。風が囁き、
星が踊る。
天の川自体が生きているかのように、愛の詩を奏でている。
「私たちは、星々の祝福を受けているのね」
織姫は微笑み、夜空を見上げる。
星たちはきらめきながら彼女に応えるように瞬いた。
「いつか、この隔たりが消える日が来るだろうか」
彦星の声に切なさが混じる。
「信じましょう、必ず」
織姫は静かに頷いた。
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かつて、彼らはまだ若く、空の神々の前で願いをかけた。
「どうか、いつまでも一緒にいられますように」
しかし神々は告げた。
「お前たちは天の川を隔て、年に一度だけ会うことを許される。それが永遠の愛の証」
その言葉は重く、しかし二人はその試練を受け入れた。
離れている時間こそが、
互いへの想いをより強く育てると知っていたからだ。
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星の橋の中央で、二人は手を取り合う。彼らの手の温もりは、冷たい宇宙の闇を一瞬で溶かす。織姫の瞳は涙で揺れた。
「離れていても、あなたを想わない日は一日たりともなかった」
彼女の声は震えていたが、その言葉には揺るぎない愛があった。
「俺もだ。お前の笑顔が、俺の灯火だ」
彦星は強く握った手を緩めない。
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時は静かに流れ、星の橋はやがて揺らぎ始める。
「行かなくてはならない」織姫は名残惜しげに言う。
「また来年、必ずここで会おう」
その言葉に、彦星は強く頷いた。
天の川が再び深い夜の帳に溶け込むと、二人はそれぞれの場所に戻っていった。
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その夜空には、二人の約束を知る無数の星たちが輝き、風は優しく彼らの愛の詩を囁いていた。
離れていても、心は一つ。
七夕の夜は、彼らの永遠の愛の証しであり続ける。