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13.二人の聖女
「こんにちは~」
「こんにちは!」
「……こんにちは」
聖女の二人に会いに行ってみた。
結構久しぶりの訪問だ。
「ヒマリさん、ミレアさん、ひさしぶりね」
「馴れ馴れしくあたしの名を呼ばないでくれる? そう思わない、ミレア?」
「……」
「私は異世界から召喚された聖女ですし、立場もあなたより上ですよ? 呼び捨てでもお咎めはないんでしょうけど一応『さん』つけているんですが……。
なぜ文句を言われなければならないのでしょうか?」
「あたしだって力の強い聖女だよ」
「……」
ミレアは黙っている。
「ですが、誘拐されたのですよね?」
「あれは……事故さ!」
「そうですか。ですが事故でも誘拐されてしまった聖女とそれを助けた聖女、みんなはどちらの方が上だと考えるでしょうね?」
「……」
ヒマリはこんな風に突っかかってくるけど、ちゃんと常識はある。
今はまだ私のことを表面上は認められないっていう感じ。
ツンデレなんじゃないかな、って思っている。
ただ、それを言ったら怒られそうだからやめている。
「どちらが先に|拐《かどわ》かされたんでしたっけ?」
「あたしだよ」
「事故って何があったんですか?」
「護衛が買収されていたんだよ」
へえ、それを事故、と言ってしまえるんだ。ちょっとかっこいい。
けど……やはりこの問題は結構大きいんだな。
そのことが改めて強く感じられる。
「そうですか。それでのこのこと捕まったんですね。その後は?」
「あの屋敷に連れていかれたのさ」
こんな風に細かい話を聞くのは初めてだ。
今まではベノンたちの救出に忙しかったから。サムエルからなにもされていないということだけを確認していた、
「何をさせられたんですか?」
「ずっと聖魔法ばっかり使わされたいたなぁ」
「彼らが何をしていたのかはしっているんですか?」
「いや、知らねえな」
「そうですか……。ミレアさんは?」
「……政治」
「政治に関しての行動をしていたと?」
「……」こくり
頷かれた。
それにしてもミレアは可愛い。聖女らしいふわふわした感じがある。
今のこくり、もめっちゃ可愛かった。
写真があればいいのに。
「え、嘘!? そんなの教えてくれた?」
「……」パタパタ
手を振られた。違うらしい。
「じゃあどうしてあんたは気づいたの!?」
「聞こえた」
「ミレアさんは耳がいいの?」
「……」こくり
「そっか、どんな話をしていたか教えてくれる? 別に今じゃなくても今度来るときに内容を書いた紙をくれる、とかでもいいけれど」
「そうする」
「ありがとう」
あんまり喋りたくなさそうなミレアに合せた方法にしたけど、受け入れてくれたようでよかった。
「そういえば今度、聖女の方がこっちに来るらしいよ」
「そうなの!?」
「……」
「本当よ。私と……ユウナに会いに来るらしい」
「ユウナ……様……ってあなたと一緒に召喚されて、今王宮で働いている人よね?」
「そうよ」
「一度会ってみたいなぁ」
「サムエル様に言ってみたら? サムエル様ならきっと合わせてくれるわ」
「うん、聞いてみる!」
ヒマリが元気そうで何より。
その元気がどうなるのか、ちょっと楽しみだ。
……いかんいかん、性格がどんどん悪くなっている気がする。
なんやかんやあったが、今回の訪問よりは、次回の訪問の方がいい情報を得られそうなのは、分かった。
一応忠告しておいたほうが良かったかな?
そう考えたのは後の祭りだった。
◇◆◇
「ねえ……」
あのヒマリが陰鬱な表情をしている。
「どうしました?」
「あの女、ムカつくね……」
いや、陰鬱な表情ではなく、ただ、怒っているだけのようだ。
「アハハ……」
やっぱそうなるんだ。
ヒマリはどうやら佐藤さんに会って来たみたいだ。
そして……
「なんであんなマウントとってくるの?
私は聖女としての力はあいつには劣るかもしれないし、事故とはいえ拐かされた身だけれど! あんな王宮で魔法も使わずのんきに過ごしているやつには言われたくない!」
この通り、マウントを取られまくったっぽい。
「大変だったでしょう?」
「うん、あんたも大変だったのね。なんかあんたの悪口もたくさん聞いたわよ」
「え?」
ヒマリだけでなく私の悪口も言っていたんだ。
「例えば、あのインキャ、なんで聖属性が使えるのよ! とか、あいつが成果を出しているのはお金を使っている、だとかいろいろ。
いろいろありすぎて、覚えられなかったわ。」
「そう……」
残念だ。
「だけど! あたしは別にあいつが言ったことを信じているわけではないから!
あんたは私たちを助けてくれたし、ここにたまに来てくれるのもあたしのことを心配して、なんでしょう? そこはちゃんと分ってるから!」
「ヒマリさん……」
ちゃんと思いが伝わるってなんて素晴らしいんだろう。
「だからね……その……ありがとう」
あ、ヒマリは完全にツンデレだな。
「どういたしまして。ヒマリさんも私のことを信じてくれて、ありがとう」
なんか気恥ずかしい。
不意に、背中をつんつんつつかれた。
「ん」
紙がミレアにより渡された。
「あ、ありがとう」
そっか、みれらていたのか……
うん、恥ずかしいね。
だけど、悪くはない気分だ。
部屋に戻って紙を除く。
中身を読んで、驚いた。
彼らは、聖女を使って改革を有利に起こそうと考えていたようだ。
そして、他の組織も味方しているらしい。
これが本当だったら……
彼女たちを救ったことを後悔してしまうかもな。
そして、平和なまま時は経つ。
まるで、何かの前触れかのように。