公開中
境界線と思い出の絵本 後編
「きゃっ」
どすん、としりもちをつく。
柔らかなタッチ、えんぴつのデッサンのような温かみ。
これは、あの絵本の作者『キノシタユズコ』さんのタッチ?ほんとに入っちゃったの?
「おいしそう…」
主人公のメリィがフルーツをもぐところだ。静止画みたいにかたまってる。
「フーク!」
「あ、良美。このぶどう、すっごく美味しいわよ」
「た、食べちゃっていいの!?メリィが困っちゃう…」
メリィの裏の家にはフルーツの森があって、そこでメリィはフルーツをもぎとって売っている。それで稼いだお金で生活し、病気のお母さんの手当をしている物語。最後は友達のリアリがフルーツを使ったタルトをつくり、病気のお母さんを治すという物語だ。
「大丈夫。物語とは関係がないから。物語に干渉しない、って言ったほうがいい?ここには境界線がはられていて、一定のラインを超えると過干渉とみなされて吸い込まれちゃうけど」
「そ、そうなんだ。その過干渉になるっていうのが、『本あらし』?」
「まー、そうかな。ひみつの方法でそのバグに入り込み、みなされないときがあるからそれを悪用してるって感じ」
難しい話だな。
「まあ、これは練習みたいなものよ。次はいよいよ『本あらし』を捕まえるわ。まあ、ここでは思う存分楽しむのが良いと思う」
「へ、え…。分かった」
「分かってくれた?助かるわ」
ふふっととらえどころのない微笑みを、フークがこぼす。
「そうしたら、覚悟はできてるわよね?」
「え?」
「どこにいようとも、問答無用で『本あらし』を捕まえてもらうわ。暇でしょ?」
え、ちょっと待って…
「あなたは『ブックパトロール』よ。その都度仕事は教えていくから、よろしくね」
「ちょっと、あまりにも強引…」
「強引?なんのことかしら」
もう、なんなんだ。もう、なんなんだ。
「あ゙!?というか、わたし、暇じゃないの!時間の都合もあるってば!」
「大丈夫。ここは時間を超越した図書館。全然準備もしないでやすやすと誘うわけないじゃない。時間を止める、というか、ここで時間を加速させることだって可能よ」
「なら、いつもそうしてよ!」
「あら、そしたら体内時計が狂っちゃうわ。さすがに、そこまでは無理よ。だから、非常時や『ブックパトロール』活動時しかだめ」
もぉおおお!勝手な行動しやがってぇえぇ!!
怒りがすごい。
のほほんとフルーツを食べるフークを、睨みつけた。ちょっとわくわくしていた自分を、おい、とつっこんだ。