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3-1
少年は特務課と通信を取る。
そして、また夜の街へ。
武装探偵社を出てから、さほど時間は経っていない。
車は濃い霧の中を猛スピードで爆走し、中華街をすり抜けていく。
速度を落とさずに曲がるから、カーブのたびにドリフトでタイヤが悲鳴を上げた。
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--- 3-1『少年と戦闘方法』 ---
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「よくこんなスピードで走れるね」
「大丈夫なの?」
「ヨコハマの地形は全て頭に叩き込まれている。暗殺のスキルは異能力とは関係ない」
個人の持つ知識や技能は残るから問題ないってことか。
なるほどねぇ、と僕は欠伸をした。
そういえば最近、まともに睡眠取れてないんだった。
流石に仮眠取れないよな。
「ルイスさん」
「ん? どうかした?」
鏡越しに鏡花ちゃんと目が合う。
「目を閉じるだけでも違うと思う。国木田さん程じゃないけど、出血が凄かった」
よく見てるな、この子。
まぁ、確かに彼女の言う通りかもしれない。
休めるかは判らないけど、目を閉じておこうかな。
暫くの間、二人は僕を気にしてか小声で話しているようだった。
「……来たね」
「来た」
僕と同時に鏡花ちゃんも気が付いたらしい。
直後、車の天井を刀が突き破ってくる。
「わっ……と!」
どうやら、刀は敦君の方に刺さったらしい。
鏡花ちゃんが思いきりハンドルを切ったけど、夜叉白雪は降り落とせないだろうな。
とりあえず窓を開けて、腕を出す。
建物の窓を鏡代わりにして場所を掴めた。
夜叉がもう一度刀を刺すと同時に、僕は引き金を引く。
僅かとはいえ、抜くために要する時間で鏡花ちゃんは敦君の首を掴んで車を飛び出した。
僕も急いで外に出ると、身体が地面に叩きつけれた。
受身を取れたけど、痛いものは痛い。
誰も人が乗っていない車は暴走し、電柱に激突して爆発していた。
爆風が吹き、土煙が上がった。
身軽に着地した鏡花ちゃんが素早く短刀を構えているのが、視界の端に映る。
僕達の見据える先には、土煙を剣圧で散らす夜叉の姿。
車の爆発で損傷は与えられなかったらしい。
夜叉が襲いかかり、彼女はその刃を短刀で弾く。
攻防が続き、刃が撃ち合う。
援護に入ろうとすると、風の切る音が聞こえた。
振り返ると同時に、目の前に鏡が現れる。
「……マズい」
どうにか防御の姿勢を取るも、また僕は地面を転がった。
なんで攻撃だ。
腕は折れてないけど、もろ食らってたら暫く立てなかっただろう。
「高所から落下し、鏡の転移を使ってエネルギーを横に使う。僕の昔の戦い方そっくりだ」
ねぇ、と僕はアリスに向かって微笑む。
鏡花ちゃんの状況は、この一瞬で悪くなっていた。
鍔迫り合いをしていて、押し負けそうになっている。
助けに入りたいけどアリスをすぐに倒すことは出来ないよな。
銃を構えると、僕とアリスの間を何か飛んでいった。
そして、そのまま夜叉白雪へと激突する。
「……何が起こって」
確認する間も与えず、アリスは蹴りを入れてきた。
今度は片腕で受け止めて、その手に持っていた銃を手放す。
逆手とはいえ、引き金を引くことぐらいはできるだろう。
問題なく掴めた拳銃で撃つも、赤い結晶は破壊できなかった。
少しズレて、欠けた程度。
早くどうにかしないといけないのに。
そんな焦りばかりが僕の中で膨れ上がった。
「ルイスさん、マフィアの秘密通路へ逃げるからついて来て」
いつの間にか背後にいた鏡花ちゃんが告げる。
「彼処はマフィア上層部だけしか使えないけど?」
「芥川と敦が先に行ってる」
それならいいか。
僕はアリスを蹴り飛ばして鏡花ちゃんを抱える。
急いで伏せれば、夜叉の刀は当たらない。
「悪いけど、このまま行くよ」
道を進む途中で虎と何かが戦っている。
芥川君が近くにいるなら、あれは“羅生門”か。
早く合流して情報共有したいな。
一時の休息を取れた少年達。
こんな状態でも、仲は悪いままだった。
次回『少年と情報共有』
転がり込んだ際に逆さまになったまま呟いたのと、部屋が動き出すのは同時だった。