公開中
氷城のお人形
優
---
記録
---
「朝、目を覚ます。
今日も味の無い料理を食べる。
学校へ行く。
私は優等生。
私は周りの子より努力している。
周りの子は私みたいに努力していない。
周りの子は私より劣っている。
テストの順位は私が1位
体力測定では全て新記録
生徒会長兼部長
私は一番以外になってはいけないと、母も祖母も口を揃えて言う。
だから一番でないといけないのに。
---
_奪われた。
この前転校してきた人。
如月さん。
この人に何もかもを奪われた。
---
彼女は天才だった。
テストも運動もコミュニュケーションも、難なくこなして、気づけば私の周りの子は彼女の周りへ移った。
---
努力した私でも、彼女には勝てなかった。
次第に、私の立場には全て彼女が立つようになった。
何の努力もしない彼女は私から努力の結果を奪った。
彼女は私を見ることもなかった。
---
彼女に奪われてからほどなくして、
私は親に見捨てられた。
“貴方は私の子じゃありません。“
何を言っているんだろう。
そう思いながら、祖母に駆け寄った。
“可哀想ねぇ、出来の悪い他人を育てないといけないなんて。“
…そうか。私はいらない子なんだ。
---
家に居場所はなくなった。
そんな私の気も知らず、彼女は笑っている。
その無邪気な笑顔は私を認識していないのだろう。
落ちぶれた私に残されたのは空虚だった。
彼女に、 憎い なんて感情は湧かなかった。
---
しばらく空の毎日を過ごした。
そしたら彼女が声をかけてきた。
「大丈夫?体調、悪いの?」
彼女は気づいてない。自分のせいだなんて。
私は 大丈夫 とだけ返してその場を去った。
---
彼女はけっこうな頻度で私に声をかけてくるようになった。
私は当たり障りのない答えばかり返した。
そしたら、彼女はこう言った。
「なんか、ロボットみたいな返し方だね。
返事のテンプレートとか作ってるの?」
正直に言えば yes だ。
周りの人の質問や会話なんてほとんど同じだったから、ほとんどテンプレートだ。
けれど、正直に答えられなかった。
私は濁した。
彼女にだけは私のことを何も知らないでいてほしい。
そう思った。
---
家に帰ると、すぐに部屋へ向かった。
部屋には監視カメラが付いているから、勉強している風に見せかけた。
今日も料理は出なかった。
---
如月さんは私にいろんなことを教えてくれた。
「ゲームセンターっていうのは、いろーんな遊びがあって、楽しい所なんだよ!」
「化粧ってね、自分をもっと素敵にしてくれる、魔法なんだよ!」
そう話をする如月さんの目はキラキラと光っていた。
羨ましかった。
---
私はゲームセンターに行ってみた。
よく分からなかったけど、如月さんが教えてくれた。
クレーンゲームは難しかった。
ぬいぐるみに苦戦してたら、如月さんが取ってくれた。
---
母にぬいぐるみがバレた。
母は私に怒っていた。
父は私を無視した。
母に、ぬいぐるみを捨てると言われた。
止めたら、ビンタされた。
私は母をビンタした。
母は私を追い出した。
私は初めて嬉しくなった。
---
私は自由になった。
学校に行かず、ゲームセンターで遊んだ。
夕方くらいになると如月さんと鉢合わせた。
如月さんは驚いて
「どうしてこんなところに!?学校、休んでたよね!?」
と言った。
だから
もう頑張らなくていいんだ
って返した。
如月さんは困惑していた。
如月さんは優しい人だ。
---
これが最後の記録。
今、この記録を見ている人は私の祖母か両親だと思う。
本音を言えば如月さんが見ていてほしい。
本題に入るけれど、これが流れてるのなら、私はもういないのだろう。
葬式は、もう終わったのだろうか。
葬式が終わったあとなら、棺の中の私の顔を思い出してほしい。
前に如月さんが教えてくれた。
化粧は自分を素敵にしてくれる魔法だと。
棺の中で化粧をした私は、綺麗なのだろうか。
綺麗だと嬉しい。
そして、棺の前で泣く私の両親と祖母は私を壊した人間。きっと嘘泣き。
変な思い出話をしてきたら信じないでほしい。
そして最期に、
“バイバイ、
努力不要の天才さん。“ 」
---
…
こんなにも…こんなにも苦しむ人が身近にいたのに。
私は救えなかったんだ。
あの日、様子がおかしいと思っていながら止めなかった私は、なんて臆病なんだろう…。
「ごめん…ごめんね…」