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第6回 物語なんて書けません!
世間は夏休みに入り、わたしはただ家でクーラーの風を浴びるだけの生活に入った。
お母さんに買い物へ連れ出された。わたしは近所のスーパーで買い物へ向かう。
「うわっ!?」
マイバッグに入れた卵が、誰かに盗まれ…
ドンッ!
「痛っ!」
わたしはぶつかられ、間抜けな声を発してしまった。その瞬間、クリーム色の床で視界がいっぱいになって___
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「うわ!?」
目が覚める。なんか、体が重い…十二単?目の前には低い机に、和紙っぽいのに硯と墨と筆。
「どうしましたか?」
誰、と言いたいところだけ…ど…
「《《源氏物語》》、楽しみにしてますよ」
「げ…げん…?ああ、そうよね。うん。頑張るわ」
そう言って、書写のときにやったっきりの筆を、震える手で持つ。べっとりした墨汁に筆先をつけて…どうしよ。かな文字だっけ?書けないし、物語知らないし!
「ああ…えっと…」
「それか、紫式部日記にしますか?」
「うーん…ちょっと、今は休憩したい気分だわ。少々散歩してくるわ」
「そうですか、では」
女の人は上品に立ち上がり、どこかへ行った。わたしも立ち上が…重っ!え、重いって…く、もっと体を鍛えとけば…
ずりずりと引きずりながら廊下らしきものを歩く。はあ…重い…
「あら?紫式部さん…ですか?」
「そうよ。えーと」
清少納言かな。どうだろう。うーん。
「清少納言…さん?」
「ええ、そうです。枕草子、順調です」
そう言って、清少納言は去っていった。
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散歩をした。けど大しておもしろくもなく、そろそろ「少々」とは言えないぐあいの長さになった。わたしはなんとか最初の場所に戻る。
「どうですか、いけそうですか?」
「ええ、まあ」
筆を手に取る。うーん。前のところに「箒木」ってあるから、書き始めたところかな。確か目次は、桐壺、帚木、空蝉、夕顔…?だったっけ…?とりあえず「空蝉」と書いておく。というか、源氏物語って主人公の光源氏が恋をする恋物語でしょ?陰キャに書けるわけなかろうがーっ!
あああどうしよどうしよう!?
「ごめんなさい、ちょっと手が痛くて。代筆してくれないかしら?」
ダメ元。これで断られたら、もうわたしは捕まって…うぅぅ。
「あら、そうですか。わかりました」
そして、わたしは必死に言う。確か空蝉のところは…かわいい空蝉さんがいて…だったっけ?というか…なんか気分が悪…う…
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「ふあ!?」
プレートをみると控室。
「え、わたしって」
「倒れてたから。大丈夫よ、ひったくりも捕まえたから」
おばちゃんっぽい店員さんだ。
「ああ…ありがとうございます。では」
「大丈夫?」
「はい」
そう言ってわたしはスーパーを出た。
…源氏物語、現代語訳で読んでみるか。そう思い、わたしは図書館にも寄った。