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恋とオレンジ
「ねえ|花菜《はな》。あんた、最近好きな人できたでしょ?」
「え?」
放課後の教室。
教科書を鞄の中に入れていると、親友の|盟子《めいこ》からそう指摘された。
私は盟子が座っている後ろの席へと体の向きを変えた。
「いや、そんなことないけど?」
私が返すと、盟子は眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせた。
「嘘ばっかり。あたしには分かるの」
「何が?」
盟子は椅子から立ち上がると、私の耳元でこそっと言った。
「……あんたの好きな人が|東《あずま》くんってこと」
私の心臓がドキッと跳ね上がる。
|東竜己《あずまりゅうき》くん。
私の幼馴染みで、唯一の男友達。
私は、東くんに恋をしていた。
「で、でも、好きかどうかは分かんないしっ!」
私が盟子に言うと、やっぱりね、と呟いた。
「花菜って隠し事できないよね。あたしにバレバレだもん」
「うぅ~」
私は廊下側の前から2番目の席をちらりと見た。
そこには友達と笑い合っている東くんがいる。
小学生まで私より小さかった背丈はすでに見上げるくらいに、あんなに高かった声はもう低い。
小学生までの「当たり前」が、中学生になるとこんなに変わるんだなって思う。
人間関係だってそうだった。
小さい頃からずっと一緒にいて、私の隣にはいつも東くんがいた。
「花菜」、「竜己くん」って呼び合っていたのが嘘のように、今では「|夜葉《よるは》さん」、「東くん」。
それどころか、いつしか東くんと私は幼馴染みという関係性が薄れて、たぶん東くんの中で私は「クラスメイト」という枠に入っているんだろう。
盟子は私の顔をじっと見つめて言った。
「花菜は告白しないの?」
「……告白なんて、今の私じゃできないよ」
いつも特定の人としか話せなくて、教室の隅っこで読書をしているような私じゃ、「告白」なんて夢のまた夢だ。
東くんも私なんかを見てくれるはずがない。
「花菜、思いきってやってみなよ。叶わない恋心なんて無いんだから」
盟子はそう言ってくれるけど、そんな風に言えるのはきっと盟子が恋をしたことが無いからだ。
告白なんて簡単にできるわけない。
「盟子には分かんないよね。恋のことなんて」
思わずそう呟いてしまった。
気づいた時には、盟子は驚きとショックで目を見開いていた。
私ははっとして、慌てて荷物をまとめる。
「わ、私、帰るね!」
「ちょっ、花菜!?」
私は、盟子から逃げるようにして教室を出た。
──その時に、東くんがこっちを見ていたことも知らずに。
---
「はぁ~」
私は大きくため息をついた。
なんで私、盟子にあんなこと言っちゃったんだろ。
相談にのってくれた相手にあんなこと言って、その上自分だけ逃げるなんて卑怯者にも程がある。
「明日、盟子にどんな顔したらいいんだろう……」
夕暮れの道をとぼとぼと思い足取りで歩く。
ふいに、小さな公園が目に入った。
「この公園……」
なんとなく見覚えがあるその公園は、遊具が全て木造だ。
少し古びているけれど、敷地に入るとなんとなく落ち着く。
「あ、ここ小さい頃よく行ってたとこだ」
お母さんに連れていってもらって、東くんと泥だらけになるまで遊んだりしたところ。
この道はあんまり通らないからなぁ。
ベンチに座って空を見上げる。
空が水色と赤色のグラデーションになっていた。
「綺麗……」
「だよな」
「うん。……へ?」
今、誰が返事をしたの?
横を向くと、同じように空を見上げる男の子がいつのまにか座っていた。
……え。
「あ、東くん!?」
「よぉ、夜葉さん」
な、なんで東くんがここに!?
私が固まっていると、東くんは空を見上げたまま話しかけてきた。
「夜葉さんって、好きな人いるんだよな」
「え?」
盟子に尋ねられた時と同じ返事をしてしまった。
急にどうしたんだろう?
「好きな人がいるなら、はっきり気持ちを伝えりゃいいじゃん」
そう言うと、東くんはひょいと立ち上がった。
好きな人に「はっきり伝えればいい」って言われると、よけい告白するか迷うんだけど……。
すると東くんは歩き出す前にピタリと止まって、
「あ、そうだ」
と言って小さな何かを投げてきた。
「わっ」
私がキャッチすると、東くんはやるよ、と言って笑った。
「告白頑張ってくれよな、花菜」
「は、な?」
今、花菜って呼んでくれた?
っていうかその前に……。
──「告白頑張ってくれよな」
そっと手を開くと、オレンジ色の包み紙に包まれた飴玉があった。
紙を外して飴玉を空にかざす。
飴玉がきらきらと輝いた。
口に入れると、甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。
「オレンジ味……」
私は包み紙を綺麗に折り畳んで鞄にしまう。
立ち上がって、歩き出す。
「分かった。頑張るよ。……だから、待ってて」
私の独り言が、オレンジ色の空に溶けた。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
いやー、小説書くのって難しいね……。
ダッシュって言うんだっけ?
「──」の使い方があんまりよく分かってなかったから、他の人のを読んで「あ、そうなんだ」ってなりました!
これからも暇があったら書いてくね!