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知らないばかり
グラムの000、011の夢小説です。夢主はNOT看守です。
ミルグラム、と呼ばれるここは、とても変な場所だ。なぜか私達は囚人だし、看守は十五歳の子と角の生えた兎だし、私の罪を看守さんは知らないし、なんなら看守さんは記憶喪失だし。そうそう、そこから私達の罪を知るらしいんだけど、知る方法は、私達の心象風景を歌にする、だそうだ。これも変わってる。
そもそも、ここにで収監されている囚人は全員が日本人だけど、この監獄が日本にあるのか分からない。まぁハーフの子も居るけど、その子は普通に日本育ちらしいから、やっぱり意味が分からない。
分からないし、ちょっぴり辛い。だけど、それでも、なんだかこのミルグラムという監獄での生活を、楽しんでいる自分も存在している。囚人の人達は生活していて楽しい人達ばっかりだし、何より、看守さんがなんだかんだで楽しい人。というか、個人的に気になる人だ。そもそも、人なのかも不明だけど。人間によく似たロボットの可能性とかも、捨てきれる話じゃないと思う。
何はともあれ、なんだかんだで、私はこの監獄での生活が好きだと思う。囚人が好き、何より、看守さんが好きだから。
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ある日の事。意味もなく、私はミルグラムの中をほっつき歩いていた。凄く暇で仕方がなかったのが、唯一の理由だ。他の囚人さんと話すのも、別に悪くはなかったけど、ミルグラムの囚人の中で、自分が話したいと思える人は、あんまり居なかった。
囚人達の中でも、自然とグループというか、そんなものがある。私はどこのグループにも入っていなかった。ただブラブラと、そこかしこのグループを回っていくだけ。ミルグラム内での定位置的なものは、あんまり無かった。悪く言えば、私だけ一人ぼっちだった。
「はぁー……。暇だなぁ」
支給品で一人遊びに使える物でも申請しようかな、と考えながら、ミルグラムを歩き回っていた。
「……ん、#下の名前(カタカナ)#か?」
その時、後ろから聞き覚えのある声がした。ふと振り返ると、そこにはいつもの看守さん。
「あ、看守さん」
「こんな所で何をしている?」
尋問の時みたいな冷たい声ではなく、ただ疑問で尋ねてるような、年相応の問いかけが聞こえる。
「えーっと、暇だったから、ここ歩き回ってます」
「……そうか」
何を言ってるんだろう、の表情を薄く見せて、看守さんは私を見た。まぁ、そんな顔をする理由は分かる。私だって、他人に同じ質問をしてこんな回答をされたら、変な人だなと感じるだろう。それは別に良い。ただ、その表情があまりにもわかりやすかったので、私はちょっとだけショックを受けた。看守さん、まさか感情が顔に出やすいタイプなのかもしれない。
「他の囚人と話したりは? 無いのか?」
なんかいつも尋問っぽい質問がされた。答えても良いし答えるけど、その質問は前の尋問の時にされた気がした。
「他の人達は……、特に?」
「そうなのか。お前はよく話す方だと思っていたんだが……」
興味深そうに目を丸くさせて、看守さんがそう口を開く。確かに、雰囲気だけ見れば、そう映るのも無理はないのかもしれない。実際、確かに私は必要があれば喋る事もできるし、人と話すのは苦手でも嫌いでもない。
何かしら理由を説明したいなと思って、私は看守さんと距離をちょっとずつ縮めながら答えた。
「いいや、その、なんて言えばいいんだろ……。囚人さん達の中でも、固まるメンバーってのがほぼ固定されてる状態でして、私はどこのメンバーでも無い、って言いますか……。うん、まぁ必要が無いとあんまり話す機会って無いかもです」
「そうか……。固まるメンバー、非常に興味深いな。今は尋問の時間ではないが、僕も今やる仕事は無いから、少し話を聞かせてくれないか」
看守さんが、数歩私に近付いた。さっきまでは他人事みたいな離れ具合だったのが、一気にぐっと短縮された。
「……はい、大丈夫です」
「それは良かった」
看守さんが、なんとも言えない雰囲気で口角を上げた。あえて無理やり言葉にするなら、少し無機質な雰囲気を纏ってたかもしれない。いや、こんな感じの表現では無い気がする。
とにかく、笑った看守さんの顔が、美しいと私は感じ取った。近くで見ると、この子は綺麗な顔立ちをしている。六月の青空みたいな瞳の色に、ぱっちりとした二重。いつも冷たいオーラを出してるから、あんまり顔を直視する機会はないけど、看守さんは綺麗だった。
「それじゃあ……。いつも固まっているというのは、具体的に誰と誰とか、あるのか?」
数秒ほど、私が頭の中で考える時間があった。少しだけ、うーんだとかあーだとか言う時以外、二人共が黙りこくっている時間が過ぎた。そして、私は一気に質問に対して回答していく。
「そうですね。基本的には、ハルカ君はムウちゃんと二人。ユノちゃん、マヒルさんは基本的に二人ですが、たまにアマネちゃんとミコトさんが入りますね。あー、でもミコトさんは、いつもはシドウさんとカズイさんの所かも。というか大体、ハルカ君以外の男性は大体固まってますね……。女性陣もそうかも。コトコちゃんも、たまに入るんですよ」
私がここまで言い切ると、看守さんが顎に手を当てて、少し考える素振りを見せた。さっきよりも少し角度が変わった顔が、また美しく見えてくる。
「……そうか。誰が誰と関わっているのかによって、新たに見えてくる罪があるかもしれないな……。ありがとう、#下の名前(カタカナ)#。これからは、ミルグラム内での人間関係についても、よく観察しようと思うよ」
さっきと同じ笑顔で、看守さんはそう言った。これからは人と話している所を観察されるなんて、囚人の人達は困るだろうな、と思う。まぁ、私はこの通り誰とも何も会話なんてしないし、別に気にしなくても良いのだが。看守さんの好きにしてくれれば良い。
「……じゃあ、何よりです」
看守さんに対して、ぺこっとお辞儀をした。
「ああ、話を聞かせてくれてありがとう。それじゃあな」
「はい」
ミルグラムの中を、看守さんがただ無機質に歩く音が、私の耳の中に入り込んでいた。ゆらゆら、ふわふわと翻るマントが、左右へとメトロノームのように揺れる金属の耳飾りが、看守さん自身の身体の無機質さを、ただ強調しているようだった。
「……」
看守さんは、果たして本当に生きているのだろうか。人間なのだろうか。もしもちゃんと人間だったとして、どうして記憶喪失なのだろうか。どうして、ミルグラムの看守をしているのだろうか。
「……エス、さん……」
多分、偽名なんだろうと予想がつく、看守さんのかろうじての名前が口から漏れ出た。
看守さんが人間だったとして、記憶喪失になる前は、人間として生活を送っていたとしての、もしもの話。あの人は、何をしていたんだろう。どんなものが好きで、どんなものが嫌いで、どんな人だったんだろう。今となっては、看守さん自身がそれを知らないから、私には知る由もない。
絶対に知る事は不可能なのに、気になってしょうがない。だって私は、看守さんの事が、気になっているから。
「うーん……。どんな人、だったんだろ……?」
いや、人なのかも分かんないか。そんな言葉が、ふっと浮かんできた。
勢い任せで全部書きました。