公開中
歌織のハーモニー 【1】 高校入学!気になるあの子
初めての小説です。温かい目で見てやってください。
「|歌織《かおり》ー?起きないと間に合わないわよー!」
んん…。お母さんの声で目が覚める。カーテンの向こうは明るくて、鳥たちが楽しそうに歌っている。
壁には制服がかかっていて …制服? そうだ、今日は高校の入学式なんだ。
階段をバタバタ鳴らしながら、慌てて一階に降りる。
「もう、なんでもっと早く起こさないの…!」
「こっちも5回くらい声かけたわよ!」
「聞こえなかったんだし!」
「まあまあ、朝から喧嘩せんといて。今日、歌織ちゃんの入学式なんやろ?楽しみやなぁ。」
キッチンから聞こえたのは居候の|風樹《ふうじゅ》くん。28歳。
気づいたら家にいた。お母さんが言うには、うんぬんかんぬんで、永住するらしい。
お兄ちゃんが欲しかったから、嬉しかった。説明するのは大変なんだけど。
家事もできて、まあまあイケメン。自慢のお兄ちゃん的存在なんだ。
そんな風樹くんは今日、入学式に来てくれる。だから、スーツを着ている。気合十分だ。
「ほら、早よご飯食べて、支度しや!家の前で写真撮るで。」
「はーい」
私は、食パンを口に放り込んだ。
「はい、チーズ!」
カシャ。校門の前でも写真が撮れた。
桜は満開 ではないけれど、つぼみが付いていて今にも咲きそう。
「じゃあ歌織、また帰りね。」
「はーい、バイバイ。」
ふぅ…。小さなため息をつく。この綺麗な校舎に目がくらみそう。
私は去年、ずぅっと、風樹くんに心配されるぐらい勉強をしていた。
どうしても、この高校に入りたかったんだ。 絶対に、青春を謳歌してやる!
私のクラスは1年C組だった。雰囲気は、そこそこ。
私は誰も選ばなかった高校に入ったから、知ってる人は、いない。関係づくりもゼロからだ。
入学式では校長先生のありがたーいお話を聞かされ、まったく知らない校歌を聞かされ、退場の時には風樹くんはカメラを構えながら大号泣していた。周りの人たち、引いてるって…。
そして、これが重要。担任は、|尾崎 結海《おざき ゆうみ》先生。教師歴は2年で、若い。
明らかに、「当たり」の先生確定だ。優しいオーラが溢れ出ている。
「はじめまして!尾崎結海です。みんなで青春楽しもうね! じゃあ、端から自己紹介どうぞー♪」
みんなが考えていたかのようにすらすらと自己紹介を進めていく。やばい、私の番だ…!
「はじめまして、西中から受験で来ました、矢島歌織です。歌織って呼んでください。家に関西弁の居候がいます。よろしくおねがいします!」
笑顔を残して、席に座った。あー、緊張した!
「おはようございます!美術部推薦で篠沢女子中から入学しました、|湯川 空美《ゆかわ くみ》です! 好きな食べ物はプリンです! 将来の夢は、幸せな家庭を築くことです♪ よろしくお願いしま~す!」
後ろの席の子がハイレベルな件について。どうしましょう…。
美術部推薦って結構すごくない!? 篠沢女子中も結構偏差値高い中学校。空美ちゃんしかいない。
しかも、結構可愛い。人気出るよ、この子。仲良くしといたほうがいいかもなぁ。
そんなことを考えているうちに、自己紹介が終わった。
「さぁ、校長先生の話でもあったけれど、この学校にはクラス替えがありません!理由は聞いてたら分かるよね?じゃあ、拓海くん。」
「え~、俺!?わっかんねぇよぉ!(汗)一番眠かった時じゃねぇかよ!」
クラスから笑いが起きる。「寝なかっただけ偉い!」という褒めも聞こえる。
「もう、『3年間を通して絆を深めるため』ですよ。ふぅ…。 それじゃあ、この28人で3年間、一緒に青春楽しみましょ~う!」
一日目は、そんなこんなで終わった。ヘアアイロンも早起きしてかけたし、第一印象は良かったほうだと思う。そして今、空美ちゃんと一緒に帰れている!
「歌織ちゃんは、片付け得意?」
「ううん、居候のほうが得意なんだよね。」
「あはは、居候かぁ。賑やかそうだね。 私、片付け得意だから、なんかあったら呼んでね!」
「うん!」
:
:
「篠沢女子中の時はさ、みんなに合わせらんなくって。だから受験してこっち来たの。歌織ちゃんみたいに話しかけてくれる子がいて嬉しい!」
「ありがとう。空美ちゃんの自己紹介、めっちゃよかったよ!」
たわいない会話だけれど、私も中学校の時は第一印象最悪の状態で入学したから、空美ちゃんの気持ち、わかる気がする。そんな仲間がいるって、今めっちゃ…。
「ねぇ、歌織ちゃん、私たち、青春してない?」
「え…!?今思ってた!」
まだ昼の空。青空が私たちを応援してくれているみたい!明日からもがんばれそう。
「ただいま!」
「お帰り、歌織ちゃん!入学式、感動したわ…。ちょっと泣いてもうた。」
「ちょっとどころじゃないでしょ。 あれ、お母さんは?」
「彩子さん?今、スーパーに買い物行っとったで。入学祝いの晩御飯の材料買いに行ったんや!」
「そっか。今日、風樹くんの事みんなに言ったら、『気になる~』って。」
「ほんまに!?もし呼ばれたら、とんで行けるように体動かしとかなあかんわ。」
と言いながら屈伸をする風樹くん。可愛い。自分の家族なのに、恋しちゃいそうだ。
その夜、私たちは美味しいご飯を食べた。
それから1週間が経った。友達関係も良い方で、相変わらず空美ちゃんとは仲良くしている。
でも、少し気になることがあった。空美ちゃんの顔色が日に日に悪くなっている気がするのだ。
「空美ちゃん、大丈夫?」
そう聞いても返ってくるのは決まった答え。
「え、うん! 大丈夫だよ! 何、急に!何か変なとこあった? それよりもさ、今日のテスト…」
怪しい。怪しいどころか心配になってきた。今日も少しおかしい事があった。
今日、クラスの女子で「私、部屋汚いんだよね~」みたいな会話が出た。
その時に、「空美ちゃん、部屋綺麗そうじゃない?」っていう意見が出た。
「確かに!空美ちゃん、可愛いもんね!」
「見てみたーい!ね、空美ちゃん。週末遊びに行っても…」
「だめ。やめて、来ないで。」
「え?」
一瞬の事だった。私が知ってる空美ちゃんとは違って、なんというか、怖かった。
「あ、ごめん。あの、そう。 私、この高校に入るにあたって引っ越したの。だから、まだ部屋の片づけが付いてなくって。 お母さんが片付け苦手だから、まだ汚いんだよね。」
「ああ、そっか。 ごめんね!」
という形で話は終わったけれど、みんなは気づいていない。空美ちゃんの話には引っかかるところがある。
初日の帰り道、空美ちゃんは片付けが得意と言っていた。空美ちゃんの事だから、お母さんの手伝いもするだろう。それに、1週間もあれば片付けなら終わりそうだけれど…。空美ちゃんが嘘をつくとは思えない。
『ご覧いただいたVTRで、世界では貧困に苦しむ人たちがいるという事が分かったのではないでしょうか。 さらに、貧困というのは日本国内でもあることです。こちらのグラフ、出ますか?』
家に帰って、テレビでは貧困について取り上げていた。
風樹くん、いつになくテレビを観ている。よほど暇なんだろう。
『はい、こちらのグラフを見ると、2022年の日本では9人に1人の子供が、貧困的な状況で生活していることが分かります。コメンテーターの城間さん、どうですか?』
『はい、そうですね。この状況だとですね、一クラス27人とすると、3人は貧困ということですね。とても苦しい。この状況をどう改善するのか。それが今後の課題だと思います…』
そんなに貧困の子供がいるの!?と、流し聞きしていた私は驚く。
「歌織ちゃんのクラス、28人やろ? じゃあ、3人くらいは貧困の子おるっちゅうことなるわな。 友達、大切にしときや。」
「うん、そうする。ねえ、風樹くん、クラスにこんな子がいるんだけどさ…」
私は、空美ちゃんのことを話した。かわいそうとは思った。私は、少し心は痛んだけれど、風樹くんなら力になってくれるはずと思った。
「ちょっと待ってや。僕の友達がそんなん詳しいねん。そんで、空美さんの今の状態が貧困的生活の子供に多い状態って言うてた気がするわ。」
「え!?やっぱり。 どうすればいいんだろう…。」
空美ちゃんの力になりたい。心の奥からそう思った。
『続いて、もし貧困の子供に会った場合の対応を学んでいきましょう。』
今の話題にピッタリだ。
『まず一つ目に、支援制度があります。地域や自治体のホームページなどで確認すると、出てきます。』
そんな。今すぐにでも助けてあげたいのに。
『でも、やっぱり大切なのは、声をかけることです。相手が大丈夫と言っても、本音を聞き出すことが大切です。』
そう。そうだよね。明日の帰り道、声をかけてみよう。
「風樹くん、私、明日声かけてみるよ。」
翌日。
「ただいまより作戦を実行します!」
心の中で叫んで、空美ちゃんに話しかける。
「ねぇ、空美ちゃん、私たちに隠してること、無い?」
「な、ないよ!何、急に!」
「分かんないかぁ。 空美ちゃん、もしかして、ひ…」
「うるさい!!!」
空美ちゃんは立ち止まって言った。
「そうだよ、私は貧困だよ! 今までの事も全部嘘だよ!!!」
「やっぱり…。」
私は小声で呟いた。
「毎日100円くらいで生活してるし、お母さんは帰ってこないんだよ!!!」
「支援も受けられるよ?」
「支援なんか…要らない!!!」
「空美ちゃん、幸せな家庭を築くことが夢なんだよね?」
「なに!?そうだけど、何か関係あるの!?」
「不幸って、連鎖していくんだって。」
「!?」
「貧困の人の子供も貧困になって… そうやって、連鎖していっちゃうんだよ。」
「そんな…」
空美ちゃんはうつむいた。どうやら、この夢は本当だったらしい。
この「不幸の連鎖」は風樹くんが教えてくれた。こういう時は役に立つのだ。
「今のうちから、しえん、うけたほうが いいのかなぁ…?」
空美ちゃんが泣き出した。どうしよう…!
「おーい、歌織ちゃん、空美さーん!って、どないしたん。泣いてるやん!まぁ、とにかく。支援の人来てもろたで!」
「「…え?」」
支援の人…!?確かに、風樹くんの後ろには、支援の人らしき人がいた。
「こんにちは。空美さん ですか?今まで大変でしたね。もう大丈夫ですよ!家まで、連れてってくれますか?」
それから何日か。
空美ちゃんは生活支援や家に支援員さんに来てもらったりして、元気を取り戻した。
「あの時はありがとう! 私、もうすっかり元気だよ!」
毎日のように言ってくれる。私が泣きそうだ。
まだ青春は始まったばかり、だよね!これっぽちで泣くものか!
つづく
いかがでしたでしょうか!温かーい目で、どうかお願いします…。
応援も、お願いします!
これから、歌織たちはどんな目に合うのでしょうか…!
まだ未定なので、リクエストもお待ちしています!