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【第2話】狂気へのディスカッション
午後▓時、ハイディ・ベーゼへのカウンセリングを開始。
LOG記録プログラムにて、カウンセリングの内容は
自動的にすべて記録される。誤記に関しては、人の手での修正を要する。
表記について:
[Target:Heidi]→ハイディに対する第三者の行動。
ここでの場合、ドクターの行動はこう表記される。
[Target:Doctor]→ドクターに対する第三者の行動。
ここでの場合、ハイディの行動はこう表記される。
他にもプログラムが疑問を感じた点を括弧の中に表記する。
この文はあくまで機械から見た所見であるため、消しても構わない。
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[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Heidi]問診を開始
[▓▓:▓▓:▓▓][Same as above]最近なにか困ったことはあるかい?
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Doctor]いえ、特には…最近は寝られていますし。
(ハイディは、軽く目を逸らした。
供述に嘘の可能性あり。)
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Heidi]他の兵士とはうまく行っている?
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Doctor]うまく、というのがどういうことなのか
私にはあまり分かりませんけど…多分。
まだ話を噛み合わせられない時がありますけど。
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Heidi]無理はしなくていい。着実に治療を進めよう。
他に確認しておきたいことはあるかい?
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Doctor]…フォルカーさんと部屋を離すことはできますか
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Heidi]問題ないけれど、何かあったのか?
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Doctor]喧嘩があったとか、そういう関係のこじれでは
無いんですけど…ただ、夜うるさいんです。
私はまだ、大きい音が怖いので…
(ハイディの心拍数に若干の上昇が見られる。
軽くPTSDの症状が出ていると思われる。)
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Heidi]分かった、私の方から上に打診しておくよ。
[▓▓:▓▓:▓▓][Target:Doctor]ありがとうございます。助かります。
[▓▓:▓▓:▓▓][System]LOG記録を終了
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カウンセリングが終了し、LOG記録システムの記録データに目を通す。
人間の目からは分からない細かな挙動や心拍数から、患者の心理的状態について
記述してくれるのは非常に助かる。この記録データから、彼女が今も
あまり眠れていないであろうことが考えられる。
何故嘘をついたのかは分からないが、恐らく自分に対しての失望から。
どれだけ薬を飲んでもどれだけ良くしてもらっても、一向に症状が
良い方向へと向かわないことに対する焦り、そして焦燥感。
それが彼女に”自分は大丈夫”だという嘘をつかせた原因だと推測する。
病気が治らないのは、彼女のせいではない。ましてやPTSDになったのも
彼女のせいではない。だが、彼女は物事を客観視することが難しい。
このことを伝えたとしても、彼女に言葉通り受け取ってもらえるかは不明だ。
なら、一先ずそっとするのが一番だろう。根気強く接していく。
精神疾患を抱える患者と接する際、最も大切なことはこの”根気”だと考える。
根気強く接していくことで見えてくる事柄もあるし、話を重ねることで
こちらを信頼してもらうこともできる。そして、回復への近道にもなる。
患者は皆口を揃えて”早く”と言うが、早くやっても何もいいことはない。
精神疾患において、一番危険なのは治りかけの状態である。
だから、我々は根気強く患者と接していく必要があるのだ。
カウンセリングの記録だって、出来ることなら私の手で取りたい。
だが見ての通り機械は正確であり、人間では分からないことも分かる。
そして軍からは、必ずこのシステムを使用しろとのお達しが出ている。
なら私がすべきなのは、自分が取ったメモとシステムのLOGを照合し、
私からの所見と機械からの所見のどちらも反映させたカルテを作成すること。
そうして見やすく正確に作成したカルテを、軍の上層部にしっかり見せることだ。
「これがハイディ・ベーゼさんのカルテです。今月の分すべてになります。」
「ふむ。一つお聞きしたいのですが、治療は順調なのですよね?
では、なぜ一向に回復に向かっている気配が無いのでしょうか。
むしろ素人目からしたら、悪化しているように見えるのですが。」
「はぁ、素人なのでしたら黙っていてください。
貴方がたは知らないかもしれませんが、精神疾患だって病気です。
癌が簡単に治るとお思いですか?いいえ、思いませんね?」
まったく、この老害には頭を悩まされるものだ。彼らは昼間優雅に
紅茶を啜る立場でありながら、こういう部分に頭を突っ込んでくる。
言い返せもしないくせにいけしゃあしゃあと吐きやがるのは、逆に感心できる。
話の切り替えに咳払いをしてから、私はハイディの部屋について、
フォルカーと離してやることは出来ないか打診してみた。
だが話の流れが悪く、老害はわざとらしくため息をついてみせた。
「正当な理由があるのですか?」
「だから、カルテにすべて書かれていますよ。よくお読みになってください。」
「ああ…要するに、彼女は大きな音が怖いということですか?」
「そういうことです。大きい音でPTSDの症状が…」
「分かりました。部屋は離しますから、どうかお静かに。」
「私は至って静かですよ、うるさいのは貴方だと思いますが。」
困った老害にそう諭すと、唇を噛んでからやっと静かになってくれた。
恐らくこの全自動紅茶啜り機は、若者にケチを付けたいだけなのだろう。
私は精神科医にしては若手の方だし、この老害に目をつけられるのは分かる。
地獄の時間が終わり、私は居心地の悪い小部屋を後にした。
人通りの少ない廊下に、自分のヒールの音だけがツカツカと響いた。