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曲パロ【ライラック】
春の風が森をそっと揺らす。
淡い青空に混じって、ほのかに甘く切ないライラックの香りが漂っていた。
リオは深く息を吸い込む。
「過ぎてゆくんだ、今日も」
そう呟くと、手にした古びた地図を胸に押し当てた。
彼の寿命は決まっている。刻一刻と減っていく限りある数字のように、彼の時も静かに消えかけていた。
だが、同時に美しい数字――すなわちかけがえのない思い出は、増え続けていた。
森の奥には「思い出の宝庫」と呼ばれる場所があった。
そこは古びた本や道具が棚に並び、時を経て埃を被っているが、それでも輝きを失わない。
リオはそこへ何度も足を運び、過去の断片を拾い集めていた。
「されど、By my side――」
仲間のセリーナが彼の横に立つ。
「不安や喝采、連帯感……濁りあるこの世界で、共に戦ってきたわね」
二人の間には言葉にならない絆があった。
朝方の倦怠感に襲われながらも、リオは三番ホームに向かう。
準急電車の音が響き、彼の胸に何かを突き刺した。
青に似たすっぱい春と、揺れるライラックの花。
「君を待つよ、ここでね」
そう言ったのは幼馴染のカイルだった。
痛みだす人生単位の傷も、彼らは愛おしく思おうと誓った。
探す宛てもなく、時に忘れてしまう自分たちに問いかける。
「何を経て、何を得て、大人になってゆくのだろう?」
リオは振り返る。
一回だけのチャンスを見送ることなく、いつでも踵を浮かしていたい――でも、それは難しい。
「主人公の候補くらいに思っていた自分が、名前もない役のようだなんて」
そんな思いも胸をよぎる。
たかが、By my side――
くだらない愛を歌う際、嘘つきにはなりたくない。
ワサワサする胸の内と、朝方の疎ましさ。
時に急行電車をズラして乗るような臨機応変さを身につけた。
影が痛い。
価値なんか無いように感じてしまう夜もある。
「僕だけが独りのような夜が嫌いだ」
彼は君を責めることもあった。
光が痛い。
希望なんて嫌いになったこともある。
置いてけぼりのような孤独に震え、我儘が拗れた美徳とも向き合った。
不完全な思いも、大事にしたい。
不安だらけの日々でも、愛してみる。
感じたことのない敗北感が、逆に彼を動かす。
鼓動が大地を揺らすように、あの夏の日々も色褪せることはない。
「今日を生きるために」
探す宛てもないまま、失くしてしまうものもあった。
「何のために、誰のために、僕らは傷を増やしていくのだろう」
雨が降るその後、緑が育つように。
意味のないことはないと信じて、二人は歩み続けた。
答えがないことばかりだとしても、だからこそ愛そうと。
あの頃の青空を、忘れずに。
苦味が重なっても、光り続けるもの。
割に合わない疵も、認めてあげよう。
「僕は僕自身を、愛している」
彼らはそう呟き、また新たな春へと歩みを進めていった。
リア友のリクエストです!歌詞出しすぎたかなぁ?